「火の用心」を多チャンネルで

山根:店を離れていた火元の店主は鍋に火を点けたまま忘れてしまったそうです。年齢は72歳。高齢者による自動車事故が増えていますが、今後、高齢者によるうっかり火災も増えるのでは?

山家:実際、建物火災での高齢者の死者が急増してきたため、2006年の改正消防法で寝室や台所などへの住宅用火災警報器の設置が義務づけられました。その効果は大きく、設置した家屋での焼死者数は減少しましたよ。しかし、国民の「義務」とはいえ、まだ設置していない家庭が2割あります。自治体による呼びかけの強化をさらに行うべきでしょう。

住宅用火災警報設置率は81.2%に達しているが、5軒に1軒は未設置だ。これは山根の仕事場。(写真・山根一眞)
住宅用火災警報設置率は81.2%に達しているが、5軒に1軒は未設置だ。これは山根の仕事場。(写真・山根一眞)

山根:家庭の調理用ガスコンロでは空炊きするとガスが自動的に止まりますが、業務用では?

山家:ピンポイントでコンロ周囲に異常な熱を感知すると消火剤が出る機器も販売されてはいるんですが、その普及も十分ではないですね。

山根:今回のように大火のリスクがあるフェーン現象が起こっている時には「火の用心」を伝える防災活動が必要ですね。

山家:火災の危険が大きい気象条件の時に、地域をあげて「火の用心」の活動をするのは非常に効果があると思います。昔ながらの拍子木を打ち巡回する、消防車が鐘を鳴らしながら走行して注意を呼びかけるとか。地域の防災行政無線も含めて多チャンネルで意識を促すことが大事です。

山根:テレビの天気予報やニュース、さらにSNSで注意を呼びかけるシステムがあってもいい。私の自宅エリアでも、暴風雨や大雨洪水警報の発令時などには、ラウドスピーカーによる杉並区からのアナウンスがあるんですが、閉めきった室内ではほとんど聴こえません。何か言っているなと気づき窓を開けた時には、アナウンスが終わっていることが多いですね。

山家:省エネのための二重ガラス窓や壁の厚い住宅も増えていますから、確かに警報は聴こえにくくなっています。外部からの音声伝達は限界でしょうね。そこで、家庭内のあらゆる情報機器を防災行政無線化する取り組みが始まっています。私たちが検討を進めている外部広報の高性能化、火災の早期発見、初期消火機能を備えた「おらが町の多目的パトロールカー」は、やはり重要ですね。そういう超地域密着型の取り組みにドローンの活用も加えるなど検討課題はたくさんあると思います。

山根:日本海側の都市は過去に多くの大火を経験しているだけに、この災害を機に、糸魚川市はぜひとも火災に強い町つくりをしてほしいな、と。

山家:木造住宅の密集状態を解消するハード面での対応は、骨の折れる仕事です。それは、町つくりの専門家と市民、行政の共同作業です。今回の大火を教訓に再建する新しい町では、「もう繰り返さない」という決意を抱くことが第一です。建築物の耐火性能を向上させることはもちろん、防火空間、防火植樹、飛び火対策として狭隘道路に噴水のようなウォーターカーテンを設けるなども検討してはどうでしょう。

山根:防火植樹やウォーターカーテンはいいですね。わが家は、阪神・淡路大震災の教訓から大火による延焼防止になればと、地下水による「人工降雨装置」でマイホーム全体をびしょ濡れにする仕掛けをしてありますが、比較的簡単にできることも多々あると思うんです。
 この大火を機に、糸魚川市が地方都市ならではの抜群の防火・耐火機能をもった町つくりをして、ぜひ「糸魚川市に見習おう!」と言われる姿になってほしいです。

 糸魚川駅のアルプス口で先ほど「糸魚川ジオステーション・ジオパル」という新しい観光情報施設を見ましたが、ここを日本中の手本となる耐火・防火都市の情報発信源にして。
 突然の電話で恐縮でした。ありがとうございました。

噴出する「人工にわか雨」が屋根上を濡らす山根の自宅。庭に埋設した貯水槽の4.5トンの地下水を利用し、水噴出のポンプはソーラー発電で充電している大型バッテリーで駆動。水や電気などのインフラが途絶えても機能する(はず)。(写真・山根一眞)
噴出する「人工にわか雨」が屋根上を濡らす山根の自宅。庭に埋設した貯水槽の4.5トンの地下水を利用し、水噴出のポンプはソーラー発電で充電している大型バッテリーで駆動。水や電気などのインフラが途絶えても機能する(はず)。(写真・山根一眞)

 山家さんとの電話を通じて、プロの消防マンとは、単なる「火消し技術者」ではなく、住民の生命と財産が守れる町のありようをつねに考えているプロなのだと、あらためて感服した。
   ところで、山家さんが奇しくも、「おらが町の多目的パトロールカー」について触れたが、これは、私が数年前に提唱し、山家さんらと議論、検討を進めている「F-1カー・プロジェクト」を指している。

 東京直下地震などの際、住宅密集地で同時多発する火災は、消防署だけでは手に負えない。そこで、消防団に加えて町会単位で延焼を防ぐ手段をもつべきだと考えて構想。それは、消防車という大げさなものではなく、路地裏も走れる「大型消火器を載せた軽自動車」のイメージだ。できれば電気駆動にしたい。ふだんは子供の防犯などのために、退職後の世代が町内巡回に利用。火災発生時には、初期消火の一助を担う。火災以外の災害時には避難所に横付けにし、負傷者の応急手当てや衛星電話による通信機能の提供、携帯の充電、水の浄化などの支援も担う、というアイデアだ。
 「F-1」の「F」は「フォーム」の略で、シャボン玉石けんの「泡」、そして泡消火剤の泡(フォーム)にちなんで命名した。

 山家さんは北九州市消防局時代に、環境にやさしい泡消火剤の開発を、同市を代表するメーカ−、シャボン玉石けんに依頼した。合成系の輸入泡消火剤は、消火後の泡切れが悪く、池に入れば魚が浮くなど生態系へのダメージがあり、消防士への影響も心配されたからだ。こうして自然素材による石けん作りを貫いてきた同社とのプロジェクトが発足、北九州市立大学の上江洲一也教授や生物学者の協力も得て、7年をかけてついに石けん系泡消火剤が完成。きわめて大きな産学官の成功事例となる。シャボン玉石けんが量産を開始したこの泡消火剤は、消防自動車メーカー、モリタも一部採用している。

 石けん系泡消火剤を用いるCAFS消防車は、北九州市消防局が行った古い市営住宅での火災実験などにより、水のみによる消防ポンプ車と比べて17分の1の水で火事が消せるという大きな効果が確認され、「消防革命」として高い評価を受けている。偶然だが、1月9日の『日経スペシャル・未来世紀ジパング・沸騰の経済学』(テレビ東京)の「異常気象と戦う!ニッポンの技術」で、シャボン玉石けんがこの石けん系泡消火剤でインドネシアの泥炭火災に挑む姿がとりあげられたので、ご覧になった方もあったのでは。

 「F-1プロジェクト」は、この石けん系泡消火剤を搭載した超小型サイズで低コストの「おらが町の多目的パトロールカー」を開発、火災リスクの大きい木造住宅密集地に普及させようと発足したのだ。まだ検討の模索段階ではあるが、糸魚川大火はこの「F-1」プロジェクトを進める契機になりそうだ。

F-1プロジェクトの検討会議。(写真・山根事務所)
F-1プロジェクトの検討会議。(写真・山根事務所)
F-1プロジェクトのメンバーが日本最小の消防車メーカー、中村消防化学(長崎県大村市)を視察。(写真・山根事務所)
F-1プロジェクトのメンバーが日本最小の消防車メーカー、中村消防化学(長崎県大村市)を視察。(写真・山根事務所)

 それにしても、糸魚川大火の現場から電話で聞いた山家さんの意見は、日本海側都市のフェーン現象による火災のみならず、巨大地震による大規模火災についても多くの示唆を含んでいた。

 糸魚川大火と阪神・淡路大震災を重ね合わせながら、迫りくる東京直下地震による大火について、さらに考えることにする。

(つづく)

冒頭写真と同じ地元銀行の掲示。(写真・山根一眞)
冒頭写真と同じ地元銀行の掲示。(写真・山根一眞)