この火事自体が悲惨な事件であるが、問題はその後の北京市の政策である。北京市は、この火事を機に防災対策として、郊外にあるこうした違法増改築された建物や老朽化した建築物を年末までに一斉撤去することを決定。建前は、都市の防災・安全対策だが、その狙いは増えすぎた北京市人口を抑制するために“低端(低級)人口”と呼ばれる、都市の最低層の仕事を支える農村戸籍の出稼ぎ者を駆逐することだった。

当局は「問題」認めず情報統制

 ちょうど北京に来ていたので、火事の現場の大興区西紅門鎮の新建二村にまで来てみたが、そこの住人はすでに完全に追い出され、撤去を待つ空(から)の老朽家屋が立ち並ぶゴーストタウンと化し、がれきの山が築かれていた。ついひと月前までは、このあたりに万人単位の出稼ぎ者らが普通に暮らしていたのだ。

 この場所に連れてきてくれた白タクの運転手も山東省の出稼ぎ者だが、「このあたりに住んでいた出稼ぎ者は、北京市の居留証もなく、最低辺の仕事をしていた。自分は北京にきて6年目で居留証も得ているので、彼らとは違う」と説明した。同情はしていないようだった。

 多くの“ドヤ”が問答無用で撤去され、そこに住んでいた労働者と家族たちはいきなり、北京の寒空に放り出されることになった。その数は10万人とも数十万人とも、最終的には100万人に達するともいわれている。

 だが北京市当局はこの事件に関する報道を統制、インターネットのSNSで低端人口をはじめとする関連用語を打ち込んでも表示されず、動画や写真も削除対象となっている。

 実際のところは、北京の郊外にいけば、こうした強制的に住人を追い出しゴーストタウン化したドヤ街がいたるところに広がり、あるいはすでにがれきの山となっており、またキャリーバッグなど手荷物を持って零下の夜をさまよう出稼ぎ者らが未だ、見かけられた。こうした人たちに、市は新たな職業や宿舎を提供している、という報道もあるが、必ずしも全員に救済措置がとられているわけではない。一部良心的な知識人、アーチストら5000人以上が、こうした北京市の政策が、憲法違反の人権問題であるとして公開書簡で抗議の声をあげている。