こういった話を、中国で発行されている日本テーマ雑誌「知日」の編集者に話してみると、彼女も同じ感想をもっていたようで「中国人はもともと他人に共感しにくいから」という。人は騙し騙されるものだという前提の社会で、安易に共感しては身ぐるみをはがされてしまう。文化大革命時代などは、家族や夫婦の間ですら裏切りが普通にあった。人はまず疑え、というのが中国人が生きていく上で必要な感覚である。

とりあえず「金メダル」

 そのような社会で生きている若者たちが「君の名は。」のような物語に果たして、素直に共感できるのだろうか。この問いに編集者は「中国人は“金メダル”が好きなんだよ。日本で、記録的ヒットを飛ばしている映画だという前評判を聞いて、とりあえず見てみよう、という人が多いのではないか」ということだった。

 確かに無意識の差別や偏見を戒める子供向け3D映画「ズートピア」が、差別や偏見がシステムとして存在し、多くの市民に肯定されている中国社会でアニメ映画として一番のヒット作品となるのは、話題作だから見てみよう、という「金メダル」志向の中国人の性格のせいだ、といわれるのが一番納得できる。

 中国では、改めて説明するまでもなく、農村戸籍と都市戸籍の差別がシステムとして存在している。最近では納税額や投資額、犯罪や規則違反による加点減点によって、個人の社会信用度をスコア化して差別化するシステムも導入されはじめている。この新たな社会信用システムは2020年に完成される予定で、ブラックリスト入りした市民の名前をネットサイトで公開するといったことが既に一部都市で行われており、それを多くの市民は、中国人のモラルの低さはこのくらいしないと直らないと受け入れている。

 中国人が「君の名は。」をどう見ているのか、確かめるために12月半ば、北京の西単にある映画館で中国語吹き替えバージョンを実際見て、中国人観客の反応を観察してみることにした。

 公開からすでに一週間過ぎていたこともあり、また平日の昼間ということもあって館内は意外にガラガラだった。その少ない観客からは時折、笑い声が上がったが、クライマックスで私のように涙にくれているような人は見かけなかった。上映が終わってエンドロールが流れ始めると、みな余韻に浸ることもなくさっさと席を立って帰っていった。

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