ちなみに弁護側の冒頭陳述はかなり食い違っていて、殺害に使われたナイフは陳世峰が用意したものではなく、ストーカー行為に恐怖を感じていた劉鑫が護身用に玄関先に置いておいた果物ナイフという。

大きく食い違う主張

 劉鑫が部屋に先に入ったあと、江歌が遅れて部屋に入ろうとしたとき、陳世峰が後ろから江歌の肩をつかみ、驚いて叫び声を上げた江歌に、劉鑫がとっさに玄関先にあったこのナイフを渡したという。劉鑫は家に入りかけた江歌を、恐怖のあまり押し出してドアの鍵を閉めてしまった。このとき、劉鑫の「鍵を閉めちゃったから、もう怒鳴らないで」といった発言があったという。部屋から閉め出された恐怖でパニックに陥った江歌が、自衛のためにナイフで陳世峰を刺そうとしたのを、陳世峰がやめさせようと、もみ合ううちに、ナイフが江歌の頸部に刺さってしまったという。

 陳世峰は、これを見て、江歌の命が助かれば、両親に膨大な治療費など経済負担を負わせることになる、どうせ自分の人生は終わりだから、止どめを刺して自分一人で責任を負おう、あるいは、顔を見られているのは江歌だけだから、彼女を殺してしまえば、うまく逃げ切れるかもしれない、と考え、倒れた江歌をさらに十数回刺したという。

 弁護側の主張は、死因は最初のひと突きの左総頸部動脈損傷による失血死であり、この死因となった傷を負わせた段階では殺意はなく、その後に間違った責任感から殺意を持ったので「殺人未遂」と主張している。着替えも準備したのではなく、家を出たときは、コインランドリーに行くつもりで出たのであって、着替えは準備したものではない、という。江歌宅に行ったのも、江歌に復縁を手伝ってもらおうと相談するつもりであり、一緒に飲むためにウィスキーを持っていったという。ちなみに、ウィスキーの瓶は現場に残されており、瓶口の部分から陳世峰のDNAが検出されている。

 事件の詳細は、ナイフの持主、殺意、計画性のいずれも検察側・弁護側の主張が大きく食い違う。11日から5日間にわたって連続で裁判員制度による裁判を行い、20日に一審判決が出る予定だ。