だが、これをもって、キッシンジャーのアドバイスを無視してトランプ政権は対中強硬路線に一直線に行く、と期待するのは時期尚早だろう。

 たとえばトランプ政権にはイレイン・チャオ(ブッシュ前政権での労働長官)という中国系女性が運輸長官として入閣する。ミッチ・マコーネル上院議員の妻である彼女はなかなかの曲者という評判だ。

 中国名は趙小蘭で、1953年台北生まれ。台湾人ということで、トランプ政権の台湾重視を反映しているのかと思われがちだが、その父親の趙錫成は上海交通大学卒で元中国国家主席の江沢民の学友で、イレイン・チャオも足しげく北京に通い、自身も江沢民と昵懇だ。それだけでなく慈善家として父母の生まれた中国に対しても愛着をもっており、長年慈善事業を通じて地方の指導者らとも人脈を築いてきた。その中には習近平の子飼いの部下といわれている李鴻忠(現天津市書記)らをはじめ、習近平にかなり近い人物も含まれている。また米中貿易推進の華人ロビー活動にもかかわってきた。

「丁寧な嫌がらせ」から始める

 そういう意味ではトランプはキッシンジャーのアドバイスを聞き入れて、中国とのパイプになりうる人物を政権チームに入れている。こういう人事をしてくるところをみれば、トランプが対中外交に関してあながち無知であるとも軽くみているともいえず蔡英文をプレジンデント呼びするといった中国に対する思い切った挑発は、むしろ中国人的性格をわかったうえでの揺さぶりにも見える。

 だいたい習近平のような、いかにも北京的な性格の中国人政治家は、弱腰の人間に対しては、舐めた横柄な態度に出て、むしろ攻撃的な人間に対してはより慎重に丁寧な扱いになりがちだ。オバマ政権が中国に舐められたのは最初から親中モードですり寄ってきたからであり、習近平が最初のオバマとの会談であえて不遜な態度をとったのは、第一印象で舐められては対等な関係にならない、という中国的な発想からだろうと思われる。だとすると、トランプの丁寧な嫌がらせから始める対中外交は、意外に中国人の好みにあうかもしれない。米中関係の成り行きを見ながら、日本も先手の外交を打ってほしいところだ。

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赤い帝国・中国が滅びる日

 「赤い帝国・中国」は今、南シナ海の軍事拠点化を着々と進め、人民元を国際通貨入りさせることに成功した。さらに文化面でも習近平政権の庇護を受けた万達集団の映画文化産業買収戦略はハリウッドを乗っ取る勢いだ。だが、一方で赤い帝国にもいくつものアキレス腱、リスクが存在する。党内部の権力闘争、暗殺、クーデターの可能性、経済崩壊、大衆の不満…。こうしたリスクは、日本を含む国際社会にも大いなるリスクである。そして、その現実を知ることは、日本の取るべき道を知ることにつながる。
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