新華社の報道というのは、中国の公式報道、つまり政治的プロパガンダであり、中国に都合のよい部分しか報じていないのだが、習近平がキッシンジャーを大好きであり、このタイミングの訪中を非常に歓迎していたことは間違いない。だが、もう少し、この訪中の狙いや意義について、掘り下げてみたい。

「トランプのメッセージ」はあったのか?

 新京報などは、キッシンジャー訪中は、トランプが次期国防長官に狂犬のあだ名もある、元海兵大将のマティスを指名したことなどが影響しているのではないかという推測を含ませている。マティスだけでなくトランプ政権には少なからぬ対中強硬派が含まれており、中国の当初の期待に反して軍事的にも貿易・通貨政策的にも対中強硬姿勢を固めているのではないかという憶測も洩れ伝わっている。こうした噂に対する中国側の不安を抑えるために、米国きっての親中派知中派で習近平との関係も悪くないキッシンジャーが送り込まれたという見方もある。また、キッシンジャーとしては、トランプ政権が思いのほか南シナ海政策で強硬的になる可能性を事前に中国側に説明しにきたという見方もある。

 一方、香港の独立系メディア、香港01は、今回のキッシンジャー訪中は、トランプが特使として送り込んだのではなく、中国が請うてキッシンジャーに来てもらったという見方を報じている。つまり、中国は、トランプ政権がかなりの対中強硬政権をつくるのではないかと気づき、これを阻止すべく、古くからの友人のキッシンジャーを頼ったという見方だ。

 だとすると、キッシンジャーが訪中直前にトランプと面会したのは、トランプの中国へのメッセージを預かるためではなく、対中強硬姿勢のトランプを中国の意向を受けて説得するためであった、という推測が成り立つ。だが、その直後に蔡英文との直接電話協議を行ったことを考えると、トランプは尊敬するキッシンジャーの面会は受け入れたものの、けっして説得されたわけではない、ということになる。

 ちなみにキッシンジャーは11月18日にトランプと面談し、中国に対する知識がほぼ白紙のトランプに対して、おおむね次のような話をしたといわれている。まず、二つの提案をした。

 一つ目は、中国の歴史・文化に理解の深い人間をトランプチームに入れること。米国人の思考と中国人の思考は決定的にちがう。中国的思考を理解できる、米国と中国の政府間の連絡役となるようなメンバーを入れること。これまで米中間に発生してきた問題について、一貫性を重視するためにこうしたパイプ役が必要なのだ、と説明したのだという。