首脳会談で勝利したのは
この双方の公表内容の違いをみれば、この首脳会談が中国側の主張する友好なムードのもとで行われたとは思えないし、中国が何度も繰り返すウィンウィンという感じでもない。米国から言うことを聞かねば追加関税を実行すると脅され、ねじ伏せられた印象だ。だから中国国内では、こうした内容は伏せられたのだ。トランプはこの首脳会談について帰国のエアフォースワン内で「信じられないような素晴らしいディール」と語ったらしい。
トランプ側も必ずしも100点の成果を得た、というわけではなかろう。まず、米国にとって切実な安全保障上の問題であった南シナ海問題などについて言及できなかった。また、中国の要求に従って、台湾問題について「一中政策」継続を確認した。また、トランプ政権が技術窃取の尖兵として警戒している中国学生の米国留学問題については、むしろ「歓迎する」と発言した。また、トランプは当初、中国のインターネット開放を求めていたが、それには触れなかった。
つまり安全保障にかかわる問題については、双方とも議論になることを避けたのだ。米国が圧倒的に強気で有利な立ち位置であれば、南シナ海問題でなにがしかの譲歩を求めただろうし、中国人留学生の技術窃取問題に言及したし、人権や中国の閉じられたネットの問題も突いてきただろう。だが、トランプはそこまで強気になれなかったわけだ。おそらくは、中国側の米国産大豆や豚肉の実質上の禁輸措置は米国にとってかなりのダメージであったし、中間選挙の下院敗北も多少は影響したのかもしれない。
中国としても農産物購入や薬物禁輸の部分なら妥協の用意はあったし、また外圧による構造改革推進は共産党としても歓迎する部分はある。問題は技術移転強要や知財権保護、ネット侵入の問題で中国側がトランプ政権が納得いくような善処を3カ月でできるか、だ。だが、たとえそれができなくても、習近平としてはかまわないのだ。彼は年末か年初に開かねばならない四中全会を切り抜け、3カ月後の全人代を無事迎えられれば、それでよいのだ。
なので、この首脳会談、米中どちらが勝利したか、という観点でみれば、表面的にはトランプの一方的勝利、といえるが、習近平にとってみれば、わずか90日間でも猶予を得たことは大勝利といえるかもしれない。この米中首脳会談でのディールが失敗すれば、習近平は失脚しかねない、といわれるまでに追いつめられていたからだ。
四中全会が未だ開かれていないが、一説に、開いてしまうと習近平の対米政策および経済政策の失敗についての責任追及が始まってしまい、総書記の座を維持することすら危ないからだとささやかれている。ただ、ここにきて少しだけ習近平に追い風が吹いてきたのは、台湾の統一地方選挙における与党・民進党の惨敗と日本が習近平の肝入り戦略“一帯一路”に参与するなど習近平政権に協力的な姿勢を示したことだ。さらに米中貿易戦争が一時的にしろ休戦したので、習近平のメンツはかろうじて維持できる公算がつよまり、四中全会はずいぶん遅れたが、無事に開かれるだろう。
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