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“ネット世論工作”が威力発揮?

 だが、こうした要因に加えて「中国による世論分断工作」が大きかった、と民進党サイドは指摘している。選挙直前の22日の大陸委員会の記者会見で欧米メディアの質問に答える形で、報道官は「最近、中国から事実でない嘘の情報が流れており、それがすべて台湾民主選挙への介入を意図した圧力手段である。これらの状況は各界が皆ともに目撃しており、すでに国際社会の普遍的な公認の事実である」と中国を批判した。

 中国の台湾の選挙干渉は今更珍しいことではない。これまでも中国に進出する台湾企業への恫喝と懐柔、台湾企業を通じた親中候補への政治献金、台湾農産物の輸入を選挙日程に合わせて調節し、中国で働く台湾人への投票のための里帰りを支援する給付金や有給休暇制度など実施してきた。だが今年は、高雄市長選に象徴されるようなネット選挙が展開されており、中国が得意とする“ネット世論工作”が威力を発揮しやすかった、と言われている。

 韓国瑜は選挙宣伝用のネット動画を流すと100万人以上が視聴し、その現象自体が“韓流”と台湾メディアに報じられ、それがさらに台湾全体で国民党への追い風となったと分析されている。だが、韓国瑜の動画を視聴し、イイネ!をつけ、PTT(台湾で人気のネット掲示板)に応援コメントをしている人間は匿名で台湾有権者とは限らない。民進党側は、中国の愛国ネットユーザーが数にものを言わせて、台湾世論を引っ張ったとみている。

 中国愛国ネットユーザーが2016年に蔡英文のFacebook上で“洗板”と言われるコメント欄あらしを行ったが、今回は、そんな露骨な嫌がらせではない。韓国瑜応援のコメントには明らかに中国的文章表現や、中国だけで使われる簡体字のものも混じっているし、わざわざシンガポールやマレーシアといった第三国のサーバーを経由した書き込みもあった。

 Facebookのネットユーザーグループ・王立第二戦研所が、中国共産党が、台湾企業や台湾伝統メディア・ネットメディアを巻き込んで、どのようにネット世論工作を行っているかを図式にして「中国のサイバー軍が完璧な産業チェーンを形成している」と発信している。これ自体が、実は匿名の裏の取れない情報ではある。だが、中国が軍民融合のサイバー部隊を動かしていることは、解放軍の戦略教科書にも明記されている事実だ。かりに、指摘されるような世論誘導があったとしても、コメンテーターやネットユーザー、支援者らにばらまかれる金は出どころもロンダリングされているし、コメンテーター自身が世論誘導に利用されているのか気づかせないぐらい洗練されている。

 だから、民進党が、こうした中国の選挙介入への警戒を言えば言うほど、これが逆に民進党が劣勢なので苦し紛れの言い訳をしている、自分たちの政治のまずさを反省せずに中国のせいにしている、といった批判のネット世論が巻き起こってしまった。一般に、世論誘導されている方は、自分が誘導されているとは気づかないし、指摘されても納得しない。さらに、韓国瑜が2001年に北京大学光華管理学院に留学している、中国共産党が未来の台湾総統にと育てた人物である、という噂がネットに流れると、こちらの方が民進党サイドが流したフェイクニュースだ、と言われる始末だった。

 ネット世論工作というのは、実態が簡単につかめないからこそ、世論が誘導される。明白な証拠が挙げられているわけではない。しかも、結局そのネット工作がターゲットにしているのは、人々の中にすでに生まれている懐疑や不満、不安なのである。有権者の中にすでに蔡英文民進党政権への慎重すぎる姿勢への不満、高雄の現状を変えたいという欲求、台湾の国際環境が中国によって圧迫されていることの不安などがあって、その漠然とした不満や不安を巧妙にあおることで、爆発的な怒りや批判の世論の潮流や社会を分断するような大きな対立を作り出すに過ぎない。