陰謀論とは別に、トランプが当選するであろう、という予測は中国共産党の中にかなり早期にあったように思う。対トランプ戦略はかなり以前から研究され、周辺ブレーンへの接触もかねてから進められていたという印象は私も持っている。前述したスティーブン・ウルジーも今年2月に香港フェニックステレビの討論番組に出演しており、AIIBや一帯一路構想に対する支持姿勢は、こうした中国当局サイドの接触によって形成されたのではないだろうか。

 一方、中国の輸入品に対する45%の懲罰関税や、中国を為替操作国認定をするといったトランプの中国に対する挑発的発言については、楽観論が多い。

 例えば45%に関税を引き上げれば中国輸出総額が13%落ち込むというモルガン・スタンレーの試算があるが、損なう貿易黒字は5%程度であり、これは中国としては耐えうる痛み、という意見もある。

 また為替操作国批判についても、中国政府が介入によって人民元の暴落を食い止めて安定させている状況の方が、米国経済にとってもプラスであると説得すれば理解を得られるという期待がある。

 中国政府サイドは、トランプの資金的バックであるトーマス・バラック率いるコロニー・キャピタルの中国投資の大きさや、トランプ・ホテルチェーンの中国市場への進出計画などを考慮すれば、トランプ政権も中国経済を破綻させるようなことはすまい、という期待がある。

習近平の「日米離反」策に備えよ

 その一方で、アンチ中国共産党派の在米華人や日本の一部保守派が、トランプ政権が対中貿易戦争を仕掛け、中国経済をグローバル経済から締め出そうとすることを期待し、トランプ支持を表明しているところが何とも奇妙な現象だ。

 繰り返すが、こうした中国当局の期待どおりのトランプ政権になるのかどうかは、いまのところ、私には判断はつきかねる。あえて、日本にとって最悪の予測をすれば、トランプ政権下の米中関係は、米国式グローバリズムの後退を中国式グローバリズムが埋める形で中国が存在感を増し、中国が望むG2時代に一歩近づく可能性がある。少なくとも中国はそうなることを期待しているので、まずはトランプ政権に対して融和的態度で接してくるのではないだろうか。フィリピン・ドゥテルテ政権に対し、スカボロー礁埋め立てを一時延期してみせたような妥協姿勢を最初に示してくるかもしれない。

 そうなったとき、習近平政権の外交戦略は、オバマ政権を親中政権とみなした初期にとった「日米離反」に立ち戻る可能性もある。日本としては東シナ海の動きに警戒しなければならなくなるだろう。トランプ政権が尖閣諸島海域における中国側の挑発にどういう態度をとるか、中国としては試してみたくなるのではないだろうか。