共産党の権威を最優先にして、為替から株価、不動産価格まで党の意向を反映させる。「バブル崩壊や金融危機は市場経済ゆえに起こる問題であるから、それを防ぐには党のコントロール強化が有益である」と、私の知り合いの体制内経済学者は習近平の経済路線の意義について説明していた。

 北戴河会議を境に、習近平はこうしたアンチ派にある程度譲歩する形で、経済の主導権を本来の担当である首相の李克強に戻した。その後、あたかも鄧小平の「改革開放」路線に回帰するようなサインがいくつも出ている。例えば習近平の経済ブレーンの劉鶴が10月20日に中央メディア3社のインタビューに答える形で「社会で議論されている国進民退(国営企業を活性化させ民営企業を締め付ける=これまでの習近平路線とみられる)は誤解である」とのメッセージを発信し、銀行に対して民営企業向けの債権融資などを指示し、特に中小零細企業への支援を強化する姿勢を打ち出している。

 続いて22日に、李克強が招集した国務院常務委員会会議では1500億元を民営企業に緊急輸出すると決定、金融機関に対して中小企業に対する信用融資を指示した。劉鶴の突然のメッセージ発信は上海株式総合指数が2500のラインを割って中国の市場に走った動揺を鎮めるためだといわれているが、同時に改革開放路線堅持、市場開放拡大の鄧小平路線に習近平路線が修正された合図と言う見方もあった。

実現しない習近平の重要講話

 だが、本当に経済路線を従来の改革開放、市場拡大路線に戻すつもりならば、習近平の口から何等かのメッセージが出るはずではないか。だから多くの観測筋は、改革開放40年目の今年、鄧小平の南巡講話を真似した習近平の南方視察の際、特に香港マカオ珠海大橋開通セレモニーの際に重要講話が出ると思っていたのだ。この重要講話で鄧小平路線回帰を明確にするのではないか、と。

 結局そうならなかったのは、習近平には未だ鄧小平路線回帰に抵抗感があり、市場開放拡大派との間で対立が残っているということではないだろうか。

 もう一つの説は、米国との貿易戦争への対応と責任問題に決着がついておらず、四中全会が開けない、というものだ。あるいは中間選挙の結果をみて、米国の貿易戦争の姿勢になんらかの変化が期待できるか見極めてからにしよう、と先延ばしされた可能性がある。中間選挙の結果は下院を民主党が奪還し、いわゆるねじれ国会となった。だが、オバマの再来と言われたテキサス州の新人上院議員候補ベト・オルークは落選し、必ずしもトランプ政権の政策にノーの審判が下されたとはいいがたいし、そもそも対中強硬姿勢は超党派の一致であって、中間選挙の結果にほとんど左右されそうにない。

次ページ 方向感覚を失った中国経済