トランプの対中戦略が今後どのように変わるかは、まったく予見できないのだが、今現在までの状況を客観的に言えば、北朝鮮問題に対しては中国を頼りにしているようだし、米中融和と言うべき状況が起きている。米中融和に引きずられるかたちで、日本も対中姿勢軟化に動いている、という中国人学者の見方も、あるいは来たるG2時代を見据えて、中国が日本を取り込もうという見方も、それなりに説得力はあるのだが、私は、もう一つの見方にも触れておきたい。

笑顔の下で、激しく

 ビジネスマン的リップサービスをすらすら言える代わりに、たびたび発言や態度を大きく変えてきたトランプに、中国は警戒し始めている。一方、安倍はそんなトランプに影響を与えるキーマンの一人であり、同時に明確に中国の脅威を意識して、対中包囲網をつくろうという地道な外交も行っている。これまでは、日本を孤立させることで日米分断を試みてきたが、5年を費やしても、それは成功していない。ならば日本の懐柔に作戦を切り替えるのは当然の選択肢だろう。日本を懐柔すれば、日米を分断できるかは別としても、トランプに“中国の脅威”を吹き込むヤツはいなくなる。

 中国としても、それなりに安倍政権の外交力を見て、あまり軽んじるわけにはいかないと判断したのではないだろうか。しかも日本は、「北朝鮮の脅威」論を借りて、憲法を改正し、国防を強化しようとしている。経済が落ち目と言われながらも、世界第三の経済大国が本気で再軍備強化すれば、中国にとっては北朝鮮の核より脅威かもしれない。少なくとも今しばらく、日本の中国に対する脅威論を和らげる必要がある。だから、中国は対日関係改善に取り組み始めた。習近平個人はどうやら安倍と相性が悪そうだが、政権としてはそういう方向に持っていこうとしているように見える。

 ただし、中国が将来的に尖閣諸島を奪い、台湾を統一しようという野心を隠し持っていることには変わりはないだろう。日中関係が雪解けムードになり、ハイレベルの交流が維持され意思疎通が深まることは大いに歓迎だ。だが、仏頂面でお互いそっぽを向いているより、笑顔の下に思惑を隠して利害を争う交渉を行うことの方が、よっぽど厳しい外交であることは言うまでもない。日中関係改善が本当にどれくらい進むかは、今しばらくの様子を見る必要があるが、それが事実としても、単純に朗報だと喜んでばかりもいられない、ということである。

 トランプと習近平のしくじり合戦が始まり世界は大混乱へ…。秋に党大会を控えた中国が国内外に対してどう動くか。なぜ中国人はトランプを応援していたのか。軍制改革の背景とその結果は? 北朝鮮の暴発と米中の対立、東南アジアへの進出の可能性など、様々な懸念材料が散らばっている、かの国を徹底分析する。
ビジネス社 2017年6月9日刊