冷静にみてみれば、ドゥテルテがどのような言葉を誰に言ったところで、フィリピン一国には軍事的にも経済的にも中国の「核心利益」であるスカボロー礁軍事拠点化を阻止する実力はない。中国の南シナ海陣取り戦略を阻止できるのは、最終的には米国の軍事力、経済力を背景としたASEAN、国際社会としての抵抗力であり、中国がドゥテルテを信頼しなくても、今回の訪中でのそのビッグマウスが米国や国際社会のフィリピンに対する信頼を揺るがしたという意味では、中国としては外交的な一勝と言えるかもしれない。
米国こそが危機的状況を招いた
もっとも、南シナ海の事態をここまで悪化させた張本人は何といっても米国オバマ政権であることは間違いない。
海軍司令官・呉勝利はファイアリークロス島など南沙三島の埋め立てがあまりにも順調にいったことについて、かつてこう発言している。
「思いがけなかったことは、習近平主席が我々をこんなに支持してくれていること、そして、我々の埋め立て工事・建設能力がこんなにも強力であったこと、そして米国人の反応がこんなに鈍かったこと」
ドゥテルテの言動やフィリピンの突然の外交政策転換を批判するより、米国こそがこの危機的状況を招いたということを認識してほしいというのが、南シナ海情勢が自国の安全保障問題に切実に絡んでくる日本人としては本音である。
『赤い帝国・中国が滅びる日』

「赤い帝国・中国」は今、南シナ海の軍事拠点化を着々と進め、人民元を国際通貨入りさせることに成功した。さらに文化面でも習近平政権の庇護を受けた万達集団の映画文化産業買収戦略はハリウッドを乗っ取る勢いだ。だが、一方で赤い帝国にもいくつものアキレス腱、リスクが存在する。党内部の権力闘争、暗殺、クーデターの可能性、経済崩壊、大衆の不満…。こうしたリスクは、日本を含む国際社会にも大いなるリスクである。そして、その現実を知ることは、日本の取るべき道を知ることにつながる。
KKベストセラーズ刊/2016年10月26日発行
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