リップサービスにしては行き過ぎた中国へのラブコールと米国批判に、講演会ではやんやの拍手が起きた。大統領にここまで言わせたという点で、中国としては、とりあえず、身銭を切った価値があった、という解釈もある。いくら後で、米国との関係を断絶するわけがない、などと言いつくろったところで、フィリピンが米国から中国・ロシアに同盟関係を乗り換えたいと公式に言っているのと同じである。かつて米外交誌・フォーリンアフェアーズ(9月27日 ウェブサイト)の記事で「ドゥテルテの登場がアジア太平洋秩序を変えることになるかもしれない」と強い懸念が示されていたが、その懸念を今更ながらに痛感する。
フィリピンを信用しすぎるな
上海社会科学院国際問題研究所の研究員・李開盛は英フィナンシャルタイムス(中国語版)に対するコメントで、今回の対比ばらまき外交は、「帳尻があっている」と評価している。根拠は、会談中に、フィリピン側に仲裁裁判のテーマを持ち出させず、両者の話し合いで南シナ海の問題を解決すると重ねて言質をとったこと。そして、米国のアジアリバランス戦略に重大な打撃を与えたことを挙げている。
「ドゥテルテはハーグ裁定の棚上げをしただけでなく、米軍との合同パトロールにも参加しないと宣言し、二度と米軍との合同演習も行わないとも宣言した。これは米国の南シナ海戦略を根底からひっくり返す。フィリピンは来年、ASEANの議長国になり、フィリピンと中国の協力関係が与える影響はさらに効果を発揮し、おそらく米国の中国に対するけん制に対し、ASEANがさらに嫌がるようになってくる」
ただこういう見方に関しては、反対意見もあり、人民大学国際関係学院の時殷弘教授がニューヨークタイムスの取材に次のようなコメントを寄せている。
「中国がドゥテルテを信用することはそれほど簡単ではない」
「フィリピンにワシントンとの親密な関係を放棄させ、カンボジアやラオスのように完全に中国サイドに引き込むことは非現実的だ」
国際社会をより俯瞰している中国学者の間では、フィリピンを信用しすぎるなという慎重論の方が強く、むしろ一刻も早くスカボロー礁の埋め立てを完成させることの方が重要という意見も多い。
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