こういった状況から、中国党内一部からは、フィリピンに対する“贈り物”に見合った成果を上げられなかったという批判がでている。中国経済が悪化の一途をたどっている中、外国にここまで経済支援をする必要があるのかという世論もネット上などで盛り上がっている。

 声明文には盛り込まれていなかったが、帰国後のドゥテルテの発言から、スカボロー礁周辺で中国漁民の漁を認める方向ですでに話し合いが進められているようでもあり、同時に年内完成を目指していたはずのスカボロー礁の軍事拠点化計画は9月下旬の段階で延期が伝えられている。とすると、中国側の譲歩の方が大きすぎるという意見も、もっともだということになる。

 では、習近平が老獪なドゥテルテに翻弄されて、対比外交をミスったということになるのだろうか。

「母方の祖父は中国人」

 中国側の真意については、一般に言われているのは、米比離反をまず成功させ、中国サイドに引き込んでから、スカボロー礁の実効支配を確実にすればよいので、ドゥテルテに対米離反を決心させるためにスカボロー礁基地建設延期という譲歩を提示した、という戦略である。中国にとって最大の目標がドゥテルテの米依存離脱宣言であるとしたら、それは成功である。

 中比経済貿易フォーラムの講演でドゥテルテは、次のように言い放っている。

 「中国と我々の関係が良くなり、米国は多少焦っている。米国はプーチンを恐れているが、それは彼に自信があるからだ。欧州情勢は微妙で、ギリシャは救いようがなく米国人はアフガンで過ちを犯し、現在医療システムを支える資金の保証もない。…

 ASEANにおいてカンボジアは中国の真の友人であり、盟友であろう。ラオスもだ、ベトナムもだ。インドネシアは中立だが、フィリピンは非常に中国に傾倒している。…

 米国にはフィリピン人の生活境遇を真に改善する力はない。日本にだってできない。日本は我々に援助してくれるだろうが、それは中国にもできる。日本も鉄道を作ってくれるだろうし、韓国もそうだろうが、しかし、我々はより中国に傾倒していて中国から融資を受けたいのだ。なぜなら、あるとき中国が我々に長期の融資をしてくれて、その後、我々との友誼のために、その融資の返済を帳消しにしてくれたことがあるからだ。日本や韓国では、こんな風にいかない。中国からの資金は充足しているが、私がさらに中国が好きなのは、さらに、あなた方の真心なのだ。…

 中国はこれまで人を侵したことがなく、人を侮蔑したことがない。これが私にとっては重要だ。私の母方の祖父は中国人である。だから中国人の特性をよく知っている。友人として、中国はいつも喜んで人を助け、我々の間の友誼の源流は非常に遠くから流れているのだ。私の個人の経験からも、このことは深く理解している。…

 政治、文化が絶えず揺れ動く時代、米国はすでに負けている。私はロシアに行ってプーチンに会い、フィリピンは中ロのパートナーになると告げるつもりだ。…

 我々は軍事、経済上を含めて米国との関係から離脱すると謹んで宣言する。もちろん、もしあなた方が経済上、米国との間に問題があるようであれば、我々があなた方を援助する。あなた方が我々を援助するように」

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