ハーグ裁定が発表されて以降、習近平から強いプレッシャーを受けた外相・王毅の怒涛の対ASEAN外交の結果、その後のASEAN関連の国際会議で、裁定を理由に中国を表立って非難する声は、公式の声明、コミュニケに盛り込まれることはなかった。中国としてはスカボロー礁実効支配という目標遂行に利する、一方の当事国のフィリピンの“裁定棚上げ”あるいは、米国などの介入を完全に遮断する“共同開発”の言質をとれば、それ以前の失点を上回る外交勝利を収めたことになる。共同声明にそれが含まれるか否か、おそらくは今回のドゥテルテ大統領訪中のハイライトであった。

135億ドルの大盤振る舞い

 さて結果からいうと、中国は期待したほどの成果は得られなかった、ようである。

 共同声明の南シナ海関連の部分を抜き出して、見てみよう。

 「双方は南シナ海の問題について見解を交換した。双方は争議問題は中比関係のすべてではないことを改めて確認。双方は適切な方法によって南シナ海争議を処理することが重要であるということで意見を交換した。双方は平和と安定を維持、促進し、南シナ海の航行の自由と飛行の自由の重要性について改めて確認し、国連憲章と1982年の国連海洋法条約が公認する国際法の原則に従い、武力や武力に相当する脅威を訴えることなく、直接に関係する主権国同士での友好的交渉、協議によって、領土および管轄権の争議を平和的に解決することを改めて確認した」

 「双方は2002年の『南シナ海行動宣言』と2016年7月25日のラオス・ビエンチャンで採択された中国‐ASEAN外相会議での宣言を振り返った。双方は宣言が有効的に実施され、協議の上に南シナ海行動規範の早期成立のために共同の努力を願うことを全面的に確認した」

 「双方は継続して協議し、互いの信頼を醸成し、南シナ海において自制を保った行動をとり、争いを複雑化させずに、平和と安定への影響を拡大化することを確認した。これに鑑み、その他メカニズムで補いながら、またその他メカニズムの基礎を損なわないように、新たな協議メカニズムを打ち立てることが有益であり、双方は南シナ海について各自直面する問題およびその他関心事について、定期的に協議が持てるだろう。双方はその他協力を展開できる領域を探ることで同意した」

 声明文を読めば、南シナ海問題について、当事者同士が話し合って解決というかねてからの発言以上に踏み込めなかったことがわかるだろう。南シナ海の共同開発についても「その他協力を展開できる領域を探る」という無難な表現で終わった。ハーグ裁定やスカボロー礁の問題に関する具体的な文言も入らなかった。一方、中国側のフィリピンに対する援助は13項目あり、海上警察協力のほか、およそ135億ドルに相当する経済協力という大盤振る舞いをした。フィリピンバナナをはじめフィリピンの果物輸入禁止やフィリピン旅行禁止の制裁を解いたことは、フィリピン経済への大きな贈り物となった。

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