ただ、日中が反保護貿易主義や地球温暖化問題で中国と組み、米国と対立する立場になっても、日中関係が蜜月に戻る可能性も、日米同盟の基礎が揺らぐことも、まずない。日本にとって忘れてはならないことは、最終的には経済よりも安全保障になるからだ。日中間には領土問題・歴史問題・台湾問題が存在し、この三つの問題がある限り、日中が例えば日米のような同盟関係に近いような親密な関係になることはないし、たとえ憲法を改正しても、沖縄から米軍が出ていくことはない。

必要な逃げ足の速さ

 領土問題に妥協が許されないのは当然として、歴史問題は共産党の執政党の正統性の立脚点として中国側は(体制崩壊でもしない限り)妥協するわけにはいかず、台湾問題は日本の安全保障とかかわってくる以上、日本側は妥協できない。日中関係の改善があっても、前提には日中は敵対性のある競争関係にある。中国体制内学者たちも、2018年以降の日中関係改善は戦略的、策略的なものであるとしており、実際、双方の国民感情、特に日本人の対中感情の改善にまではなかなか至らないだろうと私も思う。そして日本が敵対性のある競争関係の中国に対して安心感を持つには米国の軍事的後ろ盾を失うわけにはいかず、米国にとっても日本は失うわけにはいかない軍事戦略上の最前線なのだ。

 そういう背景を考えれば、日中関係改善ムードというのは意外にもろいものであり、特に中国市場に進出、投資を考えている企業人たちは、中国経済の動向や、利益の計算以上に、その脆さが引き起こしうるリスクを念頭において、常に逃げ足の速さというものを確保しておく必要があるのではないか。

前回の首相訪中は2011年12月、日中関係が悪化するなか、当時の野田首相が温家宝首相と会談した(写真:AP/アフロ)
【新刊】習近平王朝の危険な野望 ―毛沢東・鄧小平を凌駕しようとする独裁者

 2017年10月に行われた中国共産党大会。政治局常務委員の7人“チャイナセブン”が発表されたが、新指導部入りが噂された陳敏爾、胡春華の名前はなかった。期待の若手ホープたちはなぜ漏れたのか。また、反腐敗キャンペーンで習近平の右腕として辣腕をふるった王岐山が外れたのはなぜか。ますます独裁の色を強める習近平の、日本と世界にとって危険な野望を明らかにする。
さくら舎 2018年1月18日刊