憲法修正に反対意見が出ない理由

 もう一つ興味深いのは、憲法修正について、意外なことに、さほど強い反対意見を彼らは言わない。習近平政権が声高に安倍政権の憲法修正発言を批判しないのは、単に日中関係改善を期待するあまりの配慮かと思っていたのだが、それだけではないようだ。くだんの体制内学者は、日本の憲法修正について「戦後との決別」と表現した。別のシンクタンクのアナリストは「日本の国家正常化」と形容した。憲法修正が中国にとってプラスかマイナスかという問い方をすれば、「“平和国家の道を捨てる”という意味では中国にとってマイナスである」「中国政府としては日中の歴史的経緯からしても、反対と言わねばならない」と答えるが、中国人として受け入れられないということはない、という姿勢だ。

 国務院に政策提言なども行っているシンクタンクのアナリストは日中関係改善が、たんなる日中だけの話ではなく、ポスト米国一極主義の「国際社会のニューストラクチャー」という意味で重要とみる。つまり「一加三=米国と日・中・独(欧)」の多極主義の枠組みを中国の市場開放の進捗とともに形成することで、目下の米国からの圧力をしのいで行きたいという目論見だ。そこでキーワードになるのが反保護貿易主義、グローバル自由市場、気候変動枠組み条約。この部分は、日本もドイツも、米国と利害が衝突する部分であり、日中独が共同歩調をとれる分野と主張する。巨大な中国市場という魅力ある餌で、日独欧の企業を釣り上げて、米国一極支配の国際社会の枠組みから新しい多極構造に変えていこう、という。

 ただ「いくら規模が大きくとも、自由に資金移動ができない、共産党がビジネスに干渉してくるような市場では開放といっても限界があるのでは。同時に金融、為替の自由化を進めない限り自由市場を名乗ることはできないが、それをやると共産党体制は維持できないかもしれないのでは?」といった意見をいうと、「まあ、それはおいおいに」と言葉を濁すのである。だが今の中国にしてみれば、日本が米国の影響下、支配下から多少なりとも抜け出すという意味で、平和憲法を修正して戦後と決別し国家正常化を果たすということは、さほど反対する必要もないのかもしれない。