演説で指摘された高級官僚とは

 王岐山とマスクの例は、ペンス演説で指摘された⾼級官僚や彼らに操縦されている⼯商界のリーダーの関係を象徴的に示すものかもしれない。

 こうした統戦部を通じた対米世論工作と同時に、懸念されているのが解放軍サイバー部隊によるネット世論工作、情報取得や情報捜査である。ブルームバーグが報じたところによれば、米大手サーバーメーカーのスーパーマイクロコンピューター(SMCI)が製造したマザーボードに米粒大のスパイチップが発覚し、それは中国の下請け工場で解放軍工作員が仕込んだものであるとして米捜査当局が捜査を進めている。米中貿易戦争の本質は、こうしたサプライチェーンを利用した中国の米企業への攻撃を防ぐために、グローバルサプライチェーンの環から中国を締め出すことだと考えれば、米国が貿易戦争に妥協点を見出だすつもりもないことは当然かもしれない。

 中国は2016年の米大統領選においては、サイバー、ネットワークを利用した選挙介入は実施していない。だが“ロシアの仕事ぶり”を目の当たりにして、その実現を急いでいるという指摘は最近になって信憑性を帯びてきた。ニューヨークタイムズ(10月10日)も「中国はすでに(サイバーによる選挙介入の)戦術も干渉能力もある。中国企業はすでに米政府機関、国防産業および米国民間企業に入り込み諜報活動をしている。その目的はもともとはチベットや香港、台湾に対する情報収集や情報操作だったが、彼らのターゲットはすでに政治的干渉や混乱を目的としたサイバー攻撃やSNSにおける宣伝工作に移っている」と分析している。

 少し脱線して中国のサイバー部隊について説明すると、2013年12月に解放軍軍事科学院が出版する「戦略学」の中で、解放軍と民間ハッカーの編成によるサイバー部隊について公式に認め、その戦略について論じられている。おそらく解放軍によるサイバー戦争についての戦略論はこれが初出ではないか。それによれば、中国のサイバー部隊とは解放軍、安全部・公安部などの政府機関および民間の自発的サイバー攻撃のパワーを動員、編成、組織化したものであり、主に民間に登場する希少なハッカーエリートをいかに解放軍のサイバー戦力に組み込むかが、中国のサイバー部隊の水準向上の決め手になる、としている。

 そのサイバー部隊の戦力数についての数字は出ていないが、報道ベースでは2009年の時点で10万人はくだらないといわれていた。解放軍のサイバー部隊としては61398部隊や61486部隊が海外メディアなどで取り上げられており比較的知られているが、それ以外にも安全部・公安部およびサイバー民兵が解放軍サイバー部隊を中心に連動して活動しているという理解でいいだろう。このサイバー部隊はもともと総参謀部三部二局傘下や広州軍区傘下にあったが、軍制改革に伴う組織再編成で2015年以降、戦略支援部隊にまとめられているようだ。