トランプ支持だった在米華僑

 6月の米国世論分断工作の通達というのは、おそらく党中央統一戦線部(統戦部)による在米華僑に対する世論工作指示だろう。実は在米華僑の少なからずがこれまでトランプ支持であった。華人が米国でやっている中小規模のビジネスはトランプ政権になってから利益が上がっているところが多く、トランプの国内政策には好感を持っている。前回の大統領選時点では、中国は華人組織に対しトランプサイドを応援するように指示していた。中国はトランプをただの目先の利益で動くビジネスマンだと、その性格を見誤っていたのだ。

 統戦部は伝統的に華僑組織や留学生組織や交流団体、学術団体などを通じて、外国のシンクタンクや企業、メディア、大学などに対して、中国に好都合の世論工作を働きかけてきた。今回、在米華僑組織を通じての世論誘導の方向性は、前回大統領選とは真逆で、トランプの政策がいかに米国の利益を損ねるかという反トランプ世論の形成に動くように指示がでた。ちなみに米国ではげしく洗脳機関として批判されている孔子学院は統戦部傘下の対米世論工作機関、特に在米華僑の親共産党化を狙った機関だ。

 7月11日、対米工作の切り札といわれていた王岐山が動いた。オバマ政権の首席補佐官を務めたこともある初のユダヤ人シカゴ市長、ラーム・エマニュエルと中南海紫光閣で会見した。この会見の中身はほとんど報道されていないが、メーンテーマは貿易戦争よりも、次の大統領選挙を見据えた民主党陣営への働きかけであると私は見ている。エマニエルの訪中目的は最大手鉄道メーカー中国中車とシカゴ交通局との車両売買13億ドルに上るディールのためだが、予定外に設定された王岐山との突然の会見だった。貿易戦争にもかかわらずこのディールが成立したというアピールをしたかったというのはわかりやすい理由だが、民主党の大票田イリノイ州に影響力のあるエマニュエルやその背後のオバマと共闘してトランプ包囲網をつくろう、という話し合いがなされた、という説が一部で流れた。

 ちなみに王岐山は7月12日にテスラCEOのイーロン・マスクと同じ場所で会談している。マスクはテスラが上海に初の米国外工場を独資で作ることになったことを受けの訪中だが、中南海に乗り付けたマスクの赤いテスラの写真が配信されるなど、その中国寄りぶりが話題となった。マスクはトランプ寄りの経営者とされてきたが、中国はそれを破格の待遇で中国市場に招きいれたのは、やはり分断工作といえる。EV車はトランプ政権が叩きつぶさねばならないと心に決めている「中国製造2025」戦略の柱の事業の一つだが、そのEV車の雄とされるテスラが中国の銀行から巨大融資を受けて、上海に巨大工場を建設するわけだから、当然ホワイトハウスは米国企業なら米国に投資しろ、などとテスラを批判した。