賈慶国が指摘する、この中国の“最悪の場合の中国の選択肢”は、北朝鮮がBRICS首脳会議開幕日に水爆実験を行って後、急に世界各国で紹介されるようになり、習近平政権の一種の観測気球、あるいはシグナルと受け取られている。9月末の米国務長官ティラーソン訪中時にも、トランプ訪中の地ならしだけでなく、こういった中国側のプランについて意見交換したかもしれない。

トランプの嫌がらせか失策か

 一般に賈慶国は米国の立場の代弁者と受け取られているが、このプランは習近平政権にとってはかなり理想的な落としどころとなっている。

 つまり、北朝鮮の核兵器管理は解放軍を通じて中国が行う。一方で米軍が38度線を越えることは断固反対。北朝鮮の安定化は、解放軍を中心とした国連軍が行い、国連の名のもと、中国の主導で公民投票を経て半島統一を行う。その中国の功労をもってして、米韓からはTHAADミサイルを撤退させる。うまくいけば在韓米軍の撤退も望めるだろう。半島の米軍プレゼンスは大いに縮小される。習近平政権は北朝鮮問題解決の立役者として国際社会から評価されるであろうし、習近平の軍制改革によって不安定化していた軍内部は“実戦”を経て、強化される。軍内の反習近平派(主に旧瀋陽軍区)の将校は危険な最前線に送り込まれ、排除される。

 北朝鮮危機が中国にとってはチャンス、という見方は他にもパリ国際関係戦略研究機構のバートレイミ・グールモン研究員が指摘している。FRI(フランス国際放送)が報じている。いわく「もし北朝鮮が崩壊すれば、中国にとって必ずしも不利益ばかりではない。とくに経済領域。もし北朝鮮で平和裏に政権交代が行われるとすれば、中国が北朝鮮の立て直しの最前列にくるわけだ」。北朝鮮は、中国経済の停滞を一気に吹き飛ばす、経済フロンティア。“朝鮮特需”につながる可能性もあるわけだ。

 過去、このコラムでも言及したが、中国の最大の懸念は、北朝鮮の核ミサイル自体ではなく、半島における米国とのパワーバランスである。北朝鮮の崩壊を嫌がっていたのは、それを口実に米軍、あるいは米国の同盟国である韓国軍が38度線を越えてくるかもしれないという恐れがあるからだ。だが、もし米国をはじめ国際社会の要請を受けて国連の名のもとに中国主導で半島が統一されれば、THAADはおろか在韓米軍自体が必要なくなるし、今の韓国は親中反米政権だし、半島は一気に中国の勢力圏下に入る。中国にとって北朝鮮有事勃発は、デメリットよりもメリットが大きい、むしろ一石四鳥、五鳥ぐらい、おいしい。

 ただ、このプランが米国のアジアにおける急激な影響力低下を招き、独裁的帝国主義的指向の強い習近平政権の後押しをし、世界のパワーバランスの大変革につながりかねない、という意味では、米国にとってはあまり喜ばしくない結果を招くことになる。

 トランプは4月の米中首脳会談において習近平に説得される形で、北朝鮮の核兵器問題の解決のゲタを中国に預けることにしたいきさつを自らメディアに語っているが、なぜ、そのような中国に圧倒的に有利な条件で、米国が譲歩したのかは私には理解不能だった。一部親トランプ保守派論者によれば、中国が北朝鮮を放棄するわけがないと見越して、できないことをあえてやれというトランプ特有の習近平政権に対する嫌がらせである、らしい。しかしながら、中国が北朝鮮を放棄するメリットは上記の研究者たちが指摘するように、デメリットより大きいと私も思う。米国が中国に北朝鮮問題への軍事介入を要請するようなことが、本当にありうるのか、私は今もってよくわからないのである。