バチカンは突破口を開けるか

 中国経済、チャイナマネーに大きく依存している国や、その軍事的脅威にさらされている国にとっては、中国からの圧力を無視して台湾を“国”扱いできない。だが、バチカンは、中国からの経済的、軍事的圧力の影響をほとんど受けることがない。バチカンの外交とは宗教外交であり、いわゆる経済や安全保障の利害を交渉する通常の外交ではないのだから、中国と台湾ともに在外公館があっても、その利害が相反することもなかろう。

 今回のバチカンの中国への歩み寄りは、西側社会の一部ではバチカンの敗北と批判的に報道されていたりもする。バチカンの中国接近の目的は、第一に中国の司教任命権を少なくとも建前上でも取り戻すという政治権威上のもの。第二に迫害に苦しむ地下教会神職・信者の救済という人道的目的。第三に新たな宗教フロンティアとしての中国への取り組み。第一の目的では、今回は妥協点が見いだせたとしても第二の点は果たして習近平政権としてどこまで妥協できるか。かりにカトリック地下教会に対してだけ迫害を緩和しても、ウイグル・ムスリムやチベット仏教に対する迫害、あるいはその他の民族や宗教に対する迫害、差別が継続することを黙認してよいのか。

 そもそも、博愛、平等を説く神の愛が、不平等で非人道的な中国の宗教政策に対して寛容であることは大いなる矛盾を生むのではないか。その上で、バチカンが台湾と断交すれば、バチカンの国際的評価は、バチカン自身が思う以上に下がるのではないか。たとえ14億人人口の中国という新たな布教フロンティアを獲得したとしても、中国共産党の指導を優先させた愛国カトリック信者を増やしても、決してバチカンの権威にプラスにはならないのではないか。

 だがバチカンが、もし中台双方と正式な“国交”をもつ最初の国として存在できれば、それこそバチカンにしかできない突破口を開いたといえるはずだ。「一つの中国」というフィクションにこだわって、有権者によって選ばれた独自の政権と軍隊と通貨と憲法をもつ人口2300万人の台湾を国家と呼べない不自然さを是正するきっかけになるやもしれない。もしそういうことをバチカンがやれるならば、近年のセックススキャンダルで傷ついた権威と国際的影響力を回復できると思うのだが、どうだろう。

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