特に、普段観光客もいなければ、管理人もいない野長城の被害が深刻だった。石造文化遺産の修繕保護という課題に対し、景観保存よりも、白灰土コンクリの保護層で磚を覆って隠してしまうやり方は、ひょっとすると、農民らの磚の盗掘を防止する発想が先にあるかもしれない。

文化財保護と観光資源化が混沌

 そもそも、中国では、文化財保護、景観保護という意識がまだまだ低く、万里の長城の落書き問題、ゴミのポイ捨て問題など、文化財修復技術問題以前のモラルの問題もある。野長城も勝手に登っては罰金という条文があるにもかかわらず、そういった法律は完全に無視されている。長城愛好家で、野長城を大切に思って慎重に登るならまだ許せるとして、そこで脱糞したり飲料ペットボトルを捨てて帰る不届きものも少なくない。

 また、文化遺産保護の概念自体が、統一されていない部分もある。文化官僚に文化財保護と観光資源化を混同している人も多いようで、世界遺産に指定されたとたん、テーマパークのような人工的な修復がされ、ネオンと土産物屋とガイドがあふれ、景観や風情を台無しにしてまうという問題が中国にはありがちだ。こういった感覚が、長城の修繕や保護の在り方にずれを生じさせるのかもしれない。

 今回の修復に関しては、あまりにも騒ぎになったので中央当局も、修繕プロジェクトに不正がなかったか調査するという。だが責任を負う官僚をあぶりだすだけでは本当の長城保護にはつながるまい。最終的には、一人ひとりの市民や観光客による、文化遺産や歴史との向き合い方が問われる話なのだと思う。

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