ハニートラップをかけられた可能性も?

 この晩餐会のあと、酔った女子留学生は劉強東に学生寮まで送ってもらった。だが、その女子留学生からその夜午前2時ごろ、警察に通報があった。女子留学生は男友達の助けを借りて警察に連絡をしたというが、警官が駆け付けてみると、「間違いました、すみません」と言うだけだった。31日夜も有名イタリア料理店で留学生たちを招いた宴会が開かれ、その女子留学生も参加。9月1日午前1時ごろ、その女子留学生は学校職員の助けを借りて警察に通報した。警察が呼び出されたのはミネソタ州立大カールソン管理学院の小教室で、そこにいた劉強東が、性暴行既遂として逮捕されたのだった。劉強東はそこで女子学生と会う約束をしていた、と主張した。

 以上のような流れを追うと、劉強東は中国女子留学生からハニートラップをかけられた可能性を完全に否定できるものではない。だが、夜中に小教室に劉強東がいたことも事実で、下心を持ってそこにいたことも間違いなかろう。もし米国で暴行罪が起訴となれば、懲役12年くらいになる重い刑罰が科される可能性もあるのだから、大企業トップとしては迂闊と言わざるを得ない。当然市場は動揺し、9月3日の報道から2日間で京東株は16%近く暴落、約70億ドルが蒸発した。下手をすれば、株主利益を棄損したとして株主訴訟も起きかねない状況だ。

 当初、性的暴行の可能性を「虚偽の主張」と一刀両断していた京東サイドも、その後の英文公式発表はちょっとニュアンスが変わり、「虚偽」という表現は使わなくなり、劉強東が警察の捜査に協力的であることを強調し、株主訴訟が起きた場合は、積極的に処理するなどとしている。これは、おそらく弁護士などから米国の強姦罪成立の条件が、中国の常識とは大きく違い、性交渉の合意がかなり厳格であり、相手が泥酔など正常な判断が下せない状況で合意が成立しない可能性も指摘されたからかもしれない。ちなみに、女子留学生を劉強東に引き合わせたとされる重要証人の崔海涛は早々に帰国している。

 さてここからはゴシップ・流言飛語の世界に足を踏み入れたい。

 男尊女卑の根強い中国には「性賄賂」が横行している。それは大学においても同じで、金主や政治家にさまざまな資金援助や便宜を得る見返りに女子学生にキャバクラ嬢やそれ以上の真似事をさせることがある。女子学生は単位や奨学金、留学チャンスなどと引き換えにそれに応じることもある。崔海涛は昨年のDBAプログラムでもよく似たことをやったという匿名証言が一部で流れた。そう仮定すると、引率の教授が特定の女子留学生を何度も劉強東に引き合わせたことも、彼女の名前が劉強東の初恋の人と同じであったというのも偶然ではなかったかもしれないし、彼女が警察に通報しながら逡巡したのも納得できよう。

 さらに噂は続く。この女子留学生に、劉を告発するように仕向けたのが中国共産党組織である、と言う話だ。大した根拠はない。匿名の事情通の証言のほかは、崔海涛の授業が9月以降休講になり、彼のプロフィールが彼の所属する清華大学長江商学院のサイトから消えているということだ。内部で彼が責任を問われているもよう。こうしたアカデミズムの性賄賂は本来、学生側も見返りがあるので表ざたになりにくい。見返りを反古にして告発しても、大学側が圧倒的に強権力なわけだから、もみ消されるのが普通。米国司法がフェアであっても、大学関係者が完全否定すれば、証拠不十分で起訴にまで持ち込めない。中国人はそんな無理な反撃はしない。その反撃ができるのは、自分側に大学より強い権力がついたとき。つまり、共産党の強い権力が劉東強を揺さぶるために、彼女に警察へ通報をさせたと考えられるわけだ。