若手の星・劉強東の性的暴行疑惑

 ちなみに馬雲は依然アリババの社員番号1番の社員でありパートナーであるという意味ではアリババから完全引退ではないといえる。だが、やはりアリババの経営から手を引くという意味では完全引退。アリババ脱貧困基金主席、馬雲公益基金の創始者、国連貿易発展会議青年創業・小企業特別顧問といった公職は継続するといい、「教育に回帰したい。自分のやりたいことをやれることが何よりも興奮し幸せである」と語った。

 自分の誕生日であり「教師デー(老師節)」の9月10日に、本当にやりたいことは教育だといって、時価総額4200億ドル企業のトップからあっさり身を引いた。それだけを読むと、美談っぽい話で確かにNYTが最初報じたニュアンスと違う。だが、これが米メディアの「フェイクニュース」と断言しがたい背景も確かにあるのだ。その一つが劉強東の性犯罪容疑あるいはハニートラップ事件。

 劉強東は、中国のeコマース企業・京東集団(JD.com)の董事局主席兼CEO。馬雲より10歳若い1974年生まれで、人民大学社会学部卒業後の1998年、北京中関村で京東公司を設立。2004年に本格的にeコマース分野に進出し、2014年にはナスダックに上場。その間、EMBAを取得したり、コロンビア大学に留学したり、コロンビア留学中に出会ったネットアイドル・章沢天と結婚したりと話題を振りまいてきた。2012年にはビジネスエリート長者番付40歳以下の部で1位、2016年にはフォーブス中国版長者番付16位。その飛躍ぶりからアリババを抜くのは時間の問題といわれていたeコマース界の若手の星である。だが、その輝かしい未来に突然影が差した。

 2018年8月31日、出張先の米ミネソタ州ミネアポリスで女性に性的暴行を働いたとして地元警察に逮捕されていたと米メディアが報じたのだ。9月1日午後には釈放されたが、ミネアポリス警察当局は現在も捜査中。京東サイドは当初、劉強東は「虚偽の主張」で拘束され、取調べによって証拠が見つからなかったから釈放されたのだと冤罪を主張していた。釈放には保釈金も必要なく、米国出国制限もないので劉は帰国して通常の業務についているという。

 興味深いのは中国メディアがかなり詳細かつ慎重に報じているということだ。

 財経ネット報道を参考にすると、劉強東はミネソタ州立大学と清華大学経済管理学院の合同DBAプログラムに参加するために訪米した。8月27日に妻子を連れてプライベートジェットでミネアポリス入りし、29日夜には家族でミネトンカ湖上の遊覧船で晩餐会を行った。この晩餐会に被害を主張する25歳の中国人女子留学生も参加していた。事件は30日夜に発生した。市内の日本食レストランで、劉強東は清華大学経済管理学院教授の崔海濤が引率してきた学生、留学生らも招いて晩餐会を開き、例の女子留学生も参加。この席では32本の葡萄酒が空けられ、かなり乱れた酒宴となった様子が、レストランの従業員らに証言されている。