ISに名指しで報復を予告された中国には多少の同情もするが、この状況は2009年の7・5事件に象徴される中国共産党のウイグル弾圧が背景にあり、これまでの中国民族政策の失敗の結果という見方もできる。この失敗の原因を冷静に分析せずに、この後におよんで、宗教過激派のテロを防ぐという建前で1000万人規模の民族を丸ごと洗脳して信仰とアイデンティティを放棄させようとする完全な民族浄化など、21世紀の文明国の想像の斜め上をいく蛮行であり、これに共感や理解を寄せる先進国は皆無だろう。中国の民族政策がこの方向性を突き進む限りは、新疆の平和安定どころか、より強い恨みと復讐心を生み、新疆の内戦化が本格化するのではないか、と懸念するのである。

人権問題に踏み込んだトランプ政権

 ところで、長らく米国を含め先進国がなかなか踏み込もうとしてこなかった人権問題としての新疆ウイグル問題が、このところ報道を含め活発化しているのは、前段でも触れたようにトランプ政権になってからである。ウイグル問題は一部IS問題とリンクしており、なかなか踏み込むのが難しいテーマだ。イスラム問題やテロ問題の背景に理解が浅い日本メディアも中国の圧力を受けながら、ウイグル問題に切り込むのは、より困難であったかと思われる。

 そこに、人権意識がオバマ政権などよりも低いといわれ続けていたトランプ政権が切り込んだことは、たとえ対中強硬路線に必要な政治カードとして利用したいというのが本音であっても、当の迫害されているウイグル・ムスリムたちにとっては朗報であり、現状を改善するチャンスであろう。

 さらにいえば、ケリー・カリーが公聴会で指摘したとおり、中国にとっての新疆政策は、習近平の壮大な軍事経済戦略である「一帯一路」の成否にかかわるテーマ。一帯一路戦略は「中国製造2025」と並んで、中国が米国に匹敵する現代社会主義強国になるために必要な二大戦略の一つだと考えれば、ウイグル問題は新疆地域のウイグル人権問題にとどまらず、日本を含む国際社会の安全保障にもリンクする問題だと再認識できるだろう。

 さて、日本首相の安倍晋三が10月に訪中し習近平と会談する日程が詰められているが、大勢の財界人も同行し、ひょっとすると一帯一路への協力もテーマに上がるかもしれない。少なくとも中国サイドはそれを大いに期待している。だが、このテーマが俎上に載るならば、ぜひともウイグル問題や「過剰債務による罠」と指摘されている債務国の“植民地化問題”なども問いただしてほしいところだ。

【新刊】習近平王朝の危険な野望 ―毛沢東・鄧小平を凌駕しようとする独裁者

 2017年10月に行われた中国共産党大会。政治局常務委員の7人“チャイナセブン”が発表されたが、新指導部入りが噂された陳敏爾、胡春華の名前はなかった。期待の若手ホープたちはなぜ漏れたのか。また、反腐敗キャンペーンで習近平の右腕として辣腕をふるった王岐山が外れたのはなぜか。ますます独裁の色を強める習近平の、日本と世界にとって危険な野望を明らかにする。
さくら舎 2018年1月18日刊