このほかにも、日中友好人士がスパイ!といった見出しの報道があふれ、日本人への警戒感をあおっている。強引な日本人拘束と起訴、さらにまだまだ日本人スパイが暗躍しているようなニュアンスの報道。そんなに日本政府が諜報活動に熱心に取り組んでいれば心強い限りなのだが、実際のところは逆で、日本の対中国情報の収集能力は以前よりも劣化しているように私は思う。スパイ騒動は、むしろ習近平政権の対日外交姿勢の在り方によるものと私は見ているのだが、どうだろう。

 目的の一つは、環球時報が触れたとおり、今、日本で外国人による情報収集や特務活動の予防が議論されており、その重点対象が明らかに中国人であることへのけん制があるとみられる。

当局の都合次第で、日本人も、親日派も

 さらに、中国社会科学院日本研究所の呉懐中の環球時報へのコメントが興味深い。

 「平時、日本人たちと交流しているとき、彼らは中国のいろいろな方面の情報に非常に興味を持ち、いろんな内幕話を聞く。中日双方の関係が比較的良好ならば、こうした方法で中国情報を仕入れるのはさらにたやすいだろう。現在、双方の関係がうまくいっていないので、日本は中国情報の必要性がさらに高まっており、人を利用したスパイ行為もやらざるを得ないのだろう」

 このコメントの裏を読めば、日中関係が良好ならば普通にやり取りされる情報も、関係が悪くなった今は、かつては普通の情報のやり取りであったものが、スパイ行為に認定されかねない、という情報周辺者の不安が垣間見える。要するに、もともとスパイ扱いされなかった人たちが、習近平政権になってからはスパイ扱いされる可能性が強まったということでもある。

 もう一歩、うがった見方をすれば、私は習近平政権にとって過去に日中が築いた人間関係が邪魔になっているのではないか、と疑っている。

 主に80年代から始まった日中の蜜月が培った人間関係は、主に胡耀邦につながる人脈、つまり共産主義青年団人脈が主流だ。今回、拘束された日中友好交流団体理事長も共青団関係組織がカウンターパートになることが多かったようだ。習近平個人には日本政府や民間人との人脈パイプはほとんどない。夫人の彭麗媛は共青団出身であり、80年代の日中青年交流にも参加しているのでそれなりの人脈があるが、習近平周辺ではそれがほぼ唯一といってよい日本とのつながりだろう。

 習近平の権力闘争の主なターゲットはすでに上海閥から共青団派に移っているが、その権力闘争と日中間の人脈つぶしは全く関係がないと言えない気もする。昨年に拘束された4人の日本人のうち2人は権力闘争に巻き込まれた可能性も仄聞している。

 共青団系の政治家で失脚して汚職と情報漏えいで無期懲役判決を受けた令計画は弟が機密情報をもったまま米国に亡命した。令計画は日本にもそれなりの資産を持っており、妻が日本へ逃亡する計画もあった。

 いずれにしても今、スパイ容疑で拘束されている日本人のほとんどが不当逮捕であると私は見ている。日本人が優秀な諜報能力があったのは戦前の話だ。だが、習近平政権の強硬な対日外交や日本への警戒感や権力闘争などを背景に、あいまいなスパイの定義を使って日本人を拘束することは、対日牽制や国内の親日派に揺さぶりをかける一つの手段となっている。

 だが、そんな政権の都合で、長きにわたって築かれた日中の民間の交流の成果が傷つけられていいのだろうか。それでより大きな不利益を被るのは日本や日本人よりも、中国と中国人の方ではないだろうか。

新刊!東アジアの若者デモ、その深層に迫る
SEALDsと東アジア若者デモってなんだ!

日本が安保法制の是非に揺れた2015年秋、注目を集めた学生デモ団体「SEALDs」。巨大な中国共産党権力と闘い、成果をあげた台湾の「ひまわり革命」。“植民地化”に異議を唱える香港の「雨傘革命」――。東アジアの若者たちが繰り広げたデモを現地取材、その深層に迫り、構造問題を浮き彫りにする。イースト新書/2016年2月10日発売。