確かに、この集団陳情は翌日には63人の幹部たちが社会秩序を妨害した容疑で逮捕されたほか、30日までに、胡春華の指示で広東省内で230人の幹部会員が逮捕された。胡春華の“事後処理”の素早さも、なんとなく事前に準備していたのではないかと疑わしく思えるのである。孫政才の処分については26日までに全国の省・区・市の書記らが次々と支持を表明する中、広東省の胡春華は態度を保留していた。28日になって遅れて支持表明したが、胡春華が孫政才の処分に不満を抱えているのはなんとなくうかがえる。

習近平側が仕掛けた?

 ただ、私個人の見方をいえば、同じ論法で、習近平側が仕掛けた可能性も説明できる。習近平が将来を嘱望している馬興瑞は2015年に深圳市長となり2016年から広東省長に出世している。彼は次の党大会で広東省書記に出世するかもしれない。習近平は広東省の内側から馬興瑞を通じて、胡春華のアラを探しており、胡春華の足元を動揺させるために、7月17日に張天明の逮捕によって広東を中心にはびこる違法マルチ商法“善心滙”の悪事を暴いた、という可能性である。その前の6月の湖南省永州市の公安局による“ゆすり”問題のとらえ方も、ちょうどこの地域は江沢民派官僚から習近平派官僚が権力を奪おうと仁義なき闘争を展開中であることを考えると、権力闘争くさい。

 なんでも権力闘争に関連づけるのは、私たちの良くない癖ではあるが、政権のお膝元・北京で数万人規模の集団陳情事件が起きたことは異常事態であり、素直に偶発事件という見方はなかなかできないのである。しかも、敏腕ジャーナリストの姜維平が権力闘争説に言及しているとなれば、なおさらである。

 たとえ権力闘争と関連づけなくても、今回の一連の事件は、中国社会のいびつさ、危うさを反映している。弱者救済をうたったネズミ講、マルチ商法がはびこるのは、それだけ社会、経済の先行きが不安定であり、弱者があふれ、共産党の執政に対して疑心が起きているからだ。習近平政権は決して大衆の支持を得ていないし、基盤が強固だとも言い難い。党大会前にまだ、何が起きるかわからないし、無事に党大会が行われた後も、まだ何が起きるかわからないのである。

 トランプと習近平のしくじり合戦が始まり世界は大混乱へ…。秋に党大会を控えた中国が国内外に対してどう動くか。なぜ中国人はトランプを応援していたのか。軍制改革の背景とその結果は? 北朝鮮の暴発と米中の対立、東南アジアへの進出の可能性など、様々な懸念材料が散らばっている、かの国を徹底分析する。
ビジネス社 2017年6月9日刊