こうなった場合、早晩、南シナ海の島々に解放軍のレーダーやミサイルが配備され、南シナ海の中国軍事拠点化が完成する。南シナ海は中国海南島にある戦略核ミサイル原潜の基地の接続水域であり、南シナ海の島々の中国の軍事拠点が完成されることで、この海域は中国原潜のサンクチュアリとなり、米国の影響力を第二列島線の向こうまで後退させるという戦略目標への実現の一歩となる。

次は東シナ海、国際秩序の正念場だ

 南シナ海は東シナ海とつながって第一列島線の内側を形成するので、南シナ海の軍事拠点化が完成すれば次は東シナ海が狙われる。尖閣諸島をめぐって日中の軍事的対立、緊張が今以上に高まることになるわけだ。習近平政権は今現在まだ解放軍の軍権を完全に掌握していないと言われているが、もしフィリピンとの外交成果として南シナ海軍事拠点化が完成すれば、解放軍の習近平に対する忠誠や信頼は強まるかもしれない。中国は将来的に米国の2倍にあたる潜水艦保有を計画しており、海軍力が高まった中国との対峙は、今とは比べ物にならないほどの脅威となるだろう。

 もう一つは、「国際社会」の権威の失墜が明らかになる。国連という枠組みの国際社会の秩序の中で法律に基づいて決めたことが、強大な軍事力と経済力を持てば無視できることを中国がその行動で示すことになる。かつてそれをやったのは、ルールメーカー自身であった米国だけだった。国際イメージを損なう、国際社会で孤立する、と常識のある国にはできない選択を13億の人口と世界第二位の経済規模をもつ中国はやってしまい、国際社会は中国を制裁できないどころか、アンチ米国のロシアやアフリカや東南アジアの小国60か国が中国支持に回る。こうなっては国際秩序や国際ルールって何なのだ、という話になる。現在の国際ルールは、すでに無力化し、強大な軍事力と経済力を持つ国が粗暴な恫喝と懐柔で、新たなルールメーカーになろうとしている。南シナ海における今の中国の動きは、そういう意味もあるのだと想像する。

 そう考えれば、仲裁裁判所の判決が中国の主張を退けてよかった、と安心するのは早い。中国が判決に従わざるを得ないように、経済力、軍事力を備えた外交力を駆使してプレッシャーを与えていかねばならないこれからが、正念場といえよう。

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