余談だが、日本の鳩山由紀夫元首相は16日に北京・清華大学で行われた「平和国際フォーラム」席上で「中国やフィリピンに圧力をかけて仲裁判断を受け入れるよう促すべきではない」と発言し、仲裁裁判所の判決に対し不支持の態度を示している。

 この席で鳩山は「東アジア和平理事会」の創立を提言し、南シナ海については「米国の関与が深い」「米国がいつも仮想敵国を作り出し、国家を動員して軍事と産業の結合を進める策略をしばしば使い、日本もこうした策略を使っている」「中国が釣魚島の主権を主張することはなんら問題ない。メディアが中国脅威論をあおっている」「中国は軍の兵力30万人の削減を宣言したことは平和に向かう善意の現れ」などとかなり中国に向かってリップサービスしたようだ。もちろん、これは中国読者向けの中国メディアの記事なので、その発言は加工されている可能性はあるのだが、ひょっとすると今年の孔子平和賞受賞を狙っているのかもしれない。

 つまり中国側は、南シナ海判決については、世界60か国近くが中国側を支持し、日本の平和主義的元首相も判決がアンフェアだと見ていることなどを根拠に、正義は中国にあり、国際常識・国際秩序のルールメーカーは中国であるとの立場を国内で喧伝しているわけである。これは従来の国連主導、米国主導の国際秩序、国際常識に対するある種の“宣戦布告”ともいえる。

習近平は軍事施設の年内完成を厳命

 これは、いくつかの非常に恐ろしいことが現実味を帯びてきたことを示しているといえる。

 すぐさま戦争が起きる、とは私は考えていない。なぜなら提訴した当事者のフィリピンの新しい大統領は判決を歓迎するも、かねてから「絶対戦争はしない」と言明しているからだ。現在の大統領のロドリゴ・ドゥテルテは大学でフィリピン共産党の指導者シソンに師事した左派だ。新内閣にもフィリピン共産党から4人の閣僚を起用。フィリピン共産党に中国系資金が入っていることは結構知られた話であり、親中色の濃い内閣といえよう。ドゥテルテ自身は判決が出る前から「事態が動かないならの二国間協議で解決」ということを言っており、中国側は経済支援を申し出る代わりに判決を棚上げし、南シナ海の共同開発という形に懐柔していく方針に自信をもっている。ドゥテルテ政権は、とりあえず中国の一方的な条件付き対話は拒否し、より良い条件を引き出そうとしているが、対話で解決する方針は維持している。

 年内にスカボロー礁の軍事施設を完成させることは習近平自身の厳命であると香港消息筋から流れている。「出て行ってください」と口頭で言っても中国が素直に聞く耳をもつわけがない。中国に完全撤退させるには、相応の強制力が必要で、それは経済制裁か軍事制裁ということになるが、中国にそういう圧力をかけることができる国が世界にいったいどのくらいあるのか。