前触れはあった。中国銀行監督管理委員会は6月半ば、大手銀行に対して、万達、安邦、海航、復星、浙江羅森などの民営企業を含む数社に対するリスク分析を行うよう要請、特に近年の猛烈な海外投資の比率などが調査対象だといわれた。こうした当局の姿勢が噂となって、この五大企業は“やばい”という心理がすでにあった上に、ネットの噂が直撃したということかもしれない。

 6月上旬にルパート・フーゲワーフ研究院が発表した「2017年中国企業の越境M&A報告」によれば、中国企業が昨年海外で行った投資及びM&Aは金額にして前年比150%増、買収先は米国が一番人気で、香港、ドイツと続いているという。海外資産買収額が多いのは海航、安邦、万達…。

 6月20日、中国共産党メディアの微信公式アカウント「学習小組」が、習近平の発言を流していのだが、それによると習近平は「いつの時代も権力を掌握しているのは社会の少数であり、権力の周辺には既得利益集団が集まっている。これら既得利益集団は“権力中心”に接近し、資源を独り占めし、巨大な利益を得ている。彼らは権貴階層かもしれないし、ホワイト・グローブかもしれない。…近水楼台先得月(水辺の建物では月がよりよく見える=権力に近いと得をする)、“権力が金銭に変わるゲーム”というルールを許してはならない」と語ったそうだ。習近平がわざわざホワイト・グローブに言及したことが、話題になった。

 これを多くの人たちが、習近平のホワイト・グローブに対する警告、宣戦布告と受け取った。そう考えると、呉小暉失脚も、万達、復星の株価暴落(あるいは揺さぶり)も、習近平のホワイト・グローブ、既得権益層に対する攻撃、という風に理解できるだろう。

「2015年の株災」暗闘と反撃

 ただし、これが純粋に習近平政権の経済政策上の現象かというと、かなり政治的な意味合いも強いと思われている。「経済政変」という言葉が出てくることからもわかるように、これは政変、つまり権力闘争とみる意見も少なくない。

 香港経済日報(6月21日)がこう報じている。「最近の習近平政権が行っている金融関連政策の動きは、尋常ではなく、背後には第十九回党大会への考慮が隠然と見えている」。

 報道によれば、習近平は2015年夏の株災について、経済問題ではなく、習近平に対抗する国内権貴族が、経済・政治利益を習近平から乗っ取ろうとした“経済政変”が発動した、と信じていたようだ。

 “経済政変”説とは、2015年の株災は江沢民、曽慶紅、劉雲山ら上海閥の共産党金融機関のトップや、蕭建華、呉小暉ら投資家が関与し、習近平から経済・金融の操縦桿を奪おうという狙いだった、とする。目的は金融危機を通じての株民(個人投資家)の財産一掃、実体経済の悪化、大規模失業といった経済混乱を引き起こし、習近平指導部への経済界や大衆の恨みを引き起こして総書記の座から引きずり下ろすことであった、という説もある。習近平は今年に入って、そうした動きに反撃すべく、保険業界のトップの入れ替えを行い、金融市場の介入、管理強化を通達し、江沢民派、曽慶紅ら太子党の牛耳る投資企業集団をターゲットに揺さぶりを仕掛けた、という見方だ。

次ページ 「内部で殺し合いが始まっている」