全体的な流れをみると、南シナ海問題は確実に中国の有利に動いていた。まず、フィリピンのドゥテルテ大統領は、「信頼できるのはロシアと中国だけ」と発言し、米国と距離をおき、中ロから武器購入するなど、軍事同盟の軸足を変えようというそぶりまで見せていた。4月から5月にかけてマニラで行われた、フィリピンが議長国となったASEAN首脳会議では中国批判は完全に封印した。

 ドゥテルテはその後、フィリピンの南シナ海の島々の資源採掘を行うとその領有権を習近平に対して主張したところ、「戦争になる」と脅されたことを明らかにした。ドゥテルテの姿勢は一貫していて「戦争は絶対しない」だ。つまり、戦争を盾に脅された時点で、主張を引っ込めたということだろう。

 そもそも3月の段階で、中国に武力で実効支配を奪われたスカボロー礁に中国が建造物(環境モニタリング基地?)を造ることは止められない、中国に宣戦布告でもしろというのか、と発言しており、国際社会ではこれをフィリピンの事実上の敗北宣言と見ていた。フィリピン世論には、ドゥテルテの対中弱腰を批判する声もあるのだが、それに阿るように強気の発言をしたとたん、中国から恫喝されて、前言を撤回するということを何度か繰り返している。

トランプは、容易に路線変更するタイプ

 中国はスカボロー礁の実効支配については、すでに米国に干渉の余地を与えないレベルにまで固めていたのだから、「航行の自由」作戦やG7も、もう少し忍耐をもって対応してもよかっただろう。だが、中国サイドの反応は、かなり焦った感じで、激しい反論をしてきた。なぜだろうか。

 一つには、中国側がトランプ政権の対中政策が再び転換するかもしれない、と見ているからかもしれない。環球時報の解説をみるに、5月下旬の米国の動きは、米国内部のタカ派の圧力によって、トランプ政権のこれまでの「北朝鮮問題で米中が協力していくために、南シナ海の問題は妥協していく」という対中路線を変更せざるを得なくなっている、という分析が党内にあるようだ。もし、トランプ政権がこの圧力に対して抵抗するだけの意思があるなら、中国としてもトランプのメンツを立てるという意味で、忍耐を示したかもしれないが、中国側は、トランプが容易に路線変更するタイプだと見定めているようである。

 国防大学戦略研究所の元所長の楊毅(海軍少将)は、こう説明している。

 「ペンタゴン、国務総省、財務省、商務省など米国各省庁がそれぞれ別の方向を向いている。南シナ海を緊張させればペンタゴンは予算を多く取れるが、財務、商務は中国との衝突を願わない。問題はトランプが誰の意見に耳をかたむけるか、だ。…米国がシビリアンコントロールの国である一方で、軍部がホワイトハウスに無理な決断を迫る芝居を何度も上演している」