背景として考えられるのは、一つは経済力と軍事的脅威を武器に、着々と囲い込んできたASEAN諸国の対中感情に4月になって変化の兆しが見えてきたことがある。たとえば、マレーシアにはアンチ中国のマハティール政権が誕生した。マレーシアは2004年以降のナジブ長期政権下でアジア最大の中国の投資先となっている。特に一帯一路戦略関連だけでもマレーシア・シンガポール高速鉄道計画や東海岸鉄道計画など40以上のプロジェクトを受け入れており、その額は1350億ドル、マレーシアのGDPが3100億ドルであると考えれば経済が乗っ取られかけているといっても過言ではない。

 中国は東南アジアの国々にその国の経済規模に見合わない大規模融資を行ってインフラ建設を行い、その融資が返済不能に陥ると、現物を差し押さえるという「悪徳金融」さながらの手法で、要衝地に軍事利用可能な港や土地を獲得してきた。パキスタンのグワダル港やスリランカのハンバントタ港の借地権・運営権の取得手法がいい例だろう。マレーシアもナジブ政権下では、そうなりかねない状況だった。

 そういう状況で、92歳のマハティールが選挙によって首相に返り咲いたのは、中国への経済依存脱却を公約として掲げたからだ。ナジブ政権はチャイナ・マネーまみれで腐敗しており、有権者から愛想をつかされていたのは事実だが、その巨額のチャイナ・マネーをバックにした与党を破ることは、アジア的金満選挙においてはかなり難しい。マハティール率いる野党が勝ったということは、有権者の反中感情が相当強い、ということでもある。また、中国と直接領有権問題を抱えているフィリピンもながらく大統領のドゥテルテが開き直るように中国マネーに期待し中国へのすり寄りぶりを隠さなかったが今年4月末、中国系ロビー団体が建てたマニラ市内の慰安婦像を撤去させた。これはドゥテルテがささやかながら中国への抵抗の意を示した、と言う風にもみえる。

ASEAN全体に高まる中国への抵抗姿勢

 4月のシンガポールでのASEAN首脳会議では昨年11月の議長声明では盛り込めなかった南シナ海問題への「懸念」の言葉が復活した。中国を名指しすることは避けたものの、ASEANなりに頑張って中国を牽制しようとている。南シナ海問題は当事国およびASEANを丸め込むことでコントロールできるとタカをくくっていた中国だが、押さえ込んでいたはずのASEAN全体に中国への抵抗姿勢が復活しそうな気配なのだ。

 そういえばベトナムも、ロシアの石油会社ロスネフチのベトナム部門が南シナ海で石油掘削を始めることを認めている。3月にこの鉱区に隣接する海域でスペインのエネルギー会社レプソルが掘削を始めようとしたときは、中国の抗議でベトナム政府は掘削の許可を取り消した。スペイン企業に石油掘削を認めず、ロシア企業に認めるのは、もちろんロシアという国自身の国力、強さがあるだろうが、やはりベトナムが3月の時点より今の方が中国に対して強気になっているのではないか。