言葉がわからないから華人を雇って、二重スパイに寝返られるとか、ばかばかしい話だが、そのばかばかしい失態で、少なくともCIA要員12人が秘密裡に殺害されているのだから、恐ろしい話である。ニューヨークタイムズは、殺害、あるいは拘束されたCIA関係者たちはおそらく”冤罪“であろう、という当局者のコメントを引用している。CIAと言えど、すべての関係者がものすごい秘密工作を行っているのではなく、ほとんどが公開情報の分析であり、ときに官僚や政治家と食事などを通じて“情報交換”を行うが、そのほとんどの情報がさして、ものすごい機密性のあるものではなかったりする。殺されるほどのことはあるまい、と私も思う。

反スパイ法でKCIAも摘発

 だがこの理不尽さこそ中国の強みかもしれない。中国はご存じのように、反スパイ法を2014年から施行した。おそらくはCIAのスパイ網摘発後、中国国内に構築された米国のスパイ網に対する危機感をさらに強めたからだろう。私が仄聞したところでは、この当時、韓国中央情報局(KCIA)のスパイ網も摘発されたという。解放軍の歌姫・湯燦が秘密裡に逮捕され国家機密漏洩で有罪判決を受けたのもこのころで、米国の情報機関とつながっていたとか、知らずにKCIAのスパイと同棲していたといった噂が流れていた。

 反スパイ法は、なかなか恐ろしい法律で、これにより社会全体がスパイ狩りに動員され、諜報機関に所属せずとも、その代理人に接触してさして機密性があるわけでもない情報を提供するだけで、スパイ容疑に当たりうることになった。さらに直轄市や省レベルの行政単位で、密告奨励法が次々と施行され、2017年4月に北京市で施行されたスパイ密告奨励法によれば、密告者に対し最高50万元の奨励金が支払われるという。隣人親兄弟が反革命罪を密告しあった文化大革命時代とそう変わらない密告社会の再現は、文革時代のように冤罪者も多く生むであろうとみられている。実際、少なくない学者や知識人、ジャーナリストが冤罪と思われながらも、国家機密漏洩有罪の憂き目にあっている。

 最終的な証拠がなく、CIA内の二重スパイ容疑者の身柄を確保しながらも、むざむざ逃がしてしまう米国。華人をスパイ容疑者として逮捕すれば、“人種差別”と民間団体が批判の声を上げる米国。これに対し、問答無用でスパイ容疑者を殺害してしまうだけでなく、冤罪を恐れることなく密告によって容疑者を逮捕、起訴してしまう中国。本気でスパイ合戦をしたら、どちらが有利かいわずもがなだ。