さらには経済支援した以上は、それが北朝鮮の人々に恩恵があるだけでなく、日本企業や国際社会の利益にかない、また対日感情にプラスになる形で進めていくことを考えねばなるまい。かつての対中ODAの轍は踏めない。北朝鮮はウランをはじめとするレアアース資源の宝庫であり、また良質で安価な労働力とほとんど手つかずの市場が期待できるアジア最後の経済フロンティアだ。特にウラン鉱山の利権は米中ロその他の国々が虎視眈々と狙う中、日本がどのように立ち回れるかも、プレイヤーとしての力量が問われるだろう。その結果が北朝鮮、あるいは未来の統一朝鮮が日本の安全保障を脅かす反日国家となるか否かにつながってくるやもしれない。

賞味期限切れ?「北朝鮮屏風論」

 中国側の半島専門の学者たちが最近指摘しているのは、中国にとって北朝鮮が米韓西側勢力との間に存在する緩衝地帯であるという「北朝鮮屏風論」がそろそろ賞味期限切れである、という問題だ。北朝鮮屏風論は北朝鮮指導者と中国指導者が同盟国同士の信頼関係を築いていてこそ成り立つのだが、習近平と金正恩の間には修復不可能な深い溝がすでにあるといわれている。中国としては、在韓米軍が完全撤退すれば、半島の非核化問題の解決の主導を米国に譲ることは許容範囲内、という見立てもある。ボイス・オブ・アメリカによれば、米シンクタンク・スティムソンセンターの中国専門家・孫韵がとあるシンポジウムで、そのような分析をしている。

 中国はすでに、リビア方式による核廃棄の末、現北朝鮮のレジーム交代が行われる可能性も含めてのシナリオを考え始めている。たとえば南北統一の動きの中で、治安の悪化、無秩序・無政府状態が起きた場合、米国がどのように動き、中国としてはどのように動くのか。あるいはロシアはどう動くのか。南北統一の動きがでたとき、中国東北の朝鮮族がどういった反応にでるのか、も重要だ。中国の研究者の中には、東北の朝鮮族および解放軍北部戦区の朝鮮族兵士は北京への忠誠よりも民族の統一に走る可能性がある、という意見もある。北朝鮮の体制転換が中国の体制にどのような影響を及ぼすか、という懸念もある。

 もちろん、米朝首脳会談の結果、トランプ側が妥協して北朝鮮の求める数年かけた段階的な核廃棄という“時間稼ぎ”になる可能性も、話し合いが決裂して戦争機運が一気に高まる可能性もある。あるいは直前になって会談自体が延期される可能性もゼロではないかもしれない。

 どのような形になっても、これがアジアの国際秩序と枠組みの転換点であり、日本という国の命運の曲がり角であったと後々振り返ることになりそうだ。

【新刊】習近平王朝の危険な野望 ―毛沢東・鄧小平を凌駕しようとする独裁者

 2017年10月に行われた中国共産党大会。政治局常務委員の7人“チャイナセブン”が発表されたが、新指導部入りが噂された陳敏爾、胡春華の名前はなかった。期待の若手ホープたちはなぜ漏れたのか。また、反腐敗キャンペーンで習近平の右腕として辣腕をふるった王岐山が外れたのはなぜか。ますます独裁の色を強める習近平の、日本と世界にとって危険な野望を明らかにする。
さくら舎 2018年1月18日刊

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