こうした予測情報がいろいろ流れる背景は、米朝首脳会談の日程と場所が決まっていながら、その成果の見込みがまだ立っていないからだ。可能性としては、トランプサイドが主張する「完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)」をそれなりの期限(6カ月から1年)を切って行うという文書で合意となるか、金正恩サイドが主張する半島の非核化への数年をかけた段階的措置で合意となるか、あるいは決裂するかの三択であるが、成果が違えば、当然中国にとっても戦略が変わってくる。何度も言っているが、中国にとって半島問題の最大のテーマは、非核化ではなく、米中新冷戦構造における勢力争いである。

 中国がどういったシナリオを望んでいるかも、実のところ分析がわかれている。5月7日に行われた大連での習近平・金正恩会談については、大連で初の国産空母「山東」の試験航海にあわせて行われ、金正恩を中国最新の空母に乗艦させたのではないか、という見方もあった。それは、双方の軍事同盟関係をアピールし、米朝会談を前にした米国への牽制だとも言われている。このとき、金正恩は習近平に緊急の経済支援を頼み込んだという情報もあるが、それに習近平が応じたという話は今のところ聞いていない。

トランプはZTEの事業再開に含み

 その直後、習近平とトランプとの電話会談では、北朝鮮に恒久的に核開発・ミサイル開発計画を放棄させるまで制裁を緩めずに継続することが重要だという認識で一致した、ということになっている(ただし新華社はこれを報じていない)。もちろん、習近平は、「双方が信頼を築き、段階的行動で、双方の関心事を解決し、北朝鮮への合理的な安全を考慮して、共同で半島の政治問題を解決してほしい」ということも言っているが、金正恩が切実に望む制裁解除への口添えはなかった模様だ。こうしたことから、習近平としては北朝鮮に完全に肩入れして、その利益の代弁者として米国と対峙するつもりはない、という観測がある。ひとまずの傍観者席をキープしつつ、推移によって、次の対応を決めようとしているのではないか。

 中国にとって米国との駆け引きで重要なテーマとして、半島問題と並行して通商問題がある。貿易戦争開始後の一回目の米中通商協議は物別れで、非常に険悪な雰囲気であったと伝えられている。米国から仕掛けられた貿易戦争では、目下中国がかなり不利に追い込まれている。だが、それに屈するわけにはいかない中国側の内政上(習近平政権の安定性)の事情がある。そういう中、中国がもっとも青ざめたといわれる中興通訊(ZTE)への米国製チップ禁輸措置で、トランプが急にZTEの事業再開のために習近平と協議中であるとツイート(5月14日)した。ZTEはこのまま米国が禁輸を続ければ破綻に追い込まれることは確実な状況だった。

次ページ 北の頼みの綱・プーチンは沈黙