すぐに利権構造や権力闘争構造を考えてしまうのは中国屋の悪いくせだが、そう思うのは、土壌・空気汚染自体は中国の至るところにあるからだ。

 CCTVのこの報道のあと、江蘇省南通市海安県の化学工場地帯にある小学校で、児童20人が集団で鼻血や発疹の症状を訴え、保護者が抗議活動をしかけて警察に鎮圧される事件も起きた。地元政府は、慌てて周辺の化学工場5社にすぐさま操業停止を命じているが、常に異臭漂う化学工場地帯に学校があることなど、中国では決して珍しくない。

これは氷山の一角、根治への道険し

 4月24日に法制晩報が「名門校が建ってなければ土壌汚染を報じてくれないのか?」という見出しで、中国の土壌汚染の深刻さを報じている。2014年の国土資源部の調べでは中国の全土壌の16.1%が汚染されており、中国31省中18省の地下水の地下水が中度・重度の汚染を受けている、という。

 常隆化工などが移転する前の数十年間、付近の農民たちは異臭と土壌汚染の真っただ中で農作物を作り続け、汚染された農作物を食べて生活していた。農民たちは「学校が引っ越してこなければ、誰も土壌汚染などに関心をもってくれなかった」と皮肉を言う。いや同じ学校でも、貧しい農民の子供が通うような普通の小学校では、鼻血が出ようが白血病になろうが、誰も見向きもしなかったかもしれない。

 あまりに至るところである汚染の問題の、どの土地のどの汚染問題がクローズアップされるか、というのは中央の権力の意向、あるいは権力闘争の風向きがやはり関わりがあると思えるのだ。地方メディア、独立系のメディアには、省を越えて自由に現場取材して報道することが許されていないという事情もある。

 そして、こうした汚染告発報道も、環境公益訴訟同様、汚染による被害者救済にはあまり役に立たない。例えば、この報道によって、この地域に昔から暮らす農民や元工場労働者たち一人一人の健康被害に対して賠償金が支払われるようになる、というようなこともない。公益訴訟で企業が賠償金を支払うことになっても、それは地元政府による環境修復費用に使われ、修復した土地の再開発によってやはり地元政府が利益を得る形になる。

 こう考えると、今回の常州のケースは深刻な希なケースではなくて、中国に普通に存在する環境問題の氷山の一角にすぎない。そして公平な透明性のある審理で、責任を負うべきが責任を負い、救済されるべきが救済されない限り、報道も訴訟も公害問題を根治する手段にならないのではないかと憂うのである。

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