この報道と、常州市サイドの強気の対応を見て、私がまず感じたことは、やはり背景に何らかの利権問題や政治的対立、あるいは権力闘争があるのではないか、という点だ。ニュースサイト易網財経が興味深い分析を載せていたのでちょっと紹介する。

 常隆化工はもともと常州の星と呼ばれるドル箱企業。知財権を156項目保持し、2007年の段階で売り上げ10億元を突破し、常州市から「社会責任賞」を受ける“優良企業”である。2010年世銀から329万ドルの融資を受けて、四塩化炭素産品など三種類の汚染源製品の淘汰を行う。この結果、常隆の売り上げは25億元にまで伸びた。

 この後、国有企業改革の流れの中で、2013年9月に上場企業の深圳諾普信化に35%の株を買収され、さらに今年1月、中化国際傘下の南通江山農薬化工と合併。つまりシノケム(中化集団=中国中央企業のエネルギー・化学工業企業、中国第四のオイルメジャー)の一員となったわけだ。これはシノケムが中心となって進めようとしている業界再編成計画の最初の企業買収という。これによってシノケム傘下の江山農薬化工は世界の除草剤市場の7割のシェアを得ることになるはずだった。

胡錦涛派の江蘇省、習近平派の標的に?

 だが、2014年、常隆など6社に対する環境公益訴訟が行われ、続いてCCTVが常隆化工の跡地汚染の問題を報じた。これにより、シノケムの企業買収にミソがついた。CCTVの報道以降、江山農薬化工は買収についてはまだ交渉途中であり、成功するかどうかは不確定であるとの声明を発表。つまり常隆化工と自社がまだ無関係であるといいたいわけだ。

 また、常州市政府の利権でもある跡地の商業地開発もとん挫したわけだ。この常隆跡地の商業地開発は、もともとフィリピン華僑によるデベロッパー・SM集団が請け負う予定だった。

 直接関係ないが、シノケムといえば、天津市の化学薬品倉庫の大爆発事件の時も、その関与がいろいろ取り沙汰されたし、2014年8月にシノケム社長に就任したばかりの蔡希有は今年2月に汚職容疑で失脚している。蔡希有失脚に関しては、すでに失脚していた周永康との関係が深いと言われ、周永康事件の“残党狩り”的な意味合いで分析されていた。

 また、江蘇省全体が2015年の習近平の反腐敗キャンペーンのターゲットになっており、同年江蘇省だけで約2000人の官僚が贈収賄、汚職容疑で立件されている。江蘇省は共産主義青年団派(胡錦濤派)の辣腕政治家・李源潮人脈が派閥を形成しており、李源潮に対する習近平派の権力闘争だという見方もあった。

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