鄧小平の改革開放は、共産党の指導が政治と思想と党と行政組織に徹底される一方で、経済活動にはできるだけ干渉しないという方向で進められていた。だからこそ、中国はこの米国スタンダードのグローバル経済の波に乗って、奇跡の高度経済成長を遂げることができた。中国の今現在の経済的成功は、米国スタンダードのグローバル経済に中国側が合わせた結果である。

 中国はこの成長のために、“農民”という膨大な労働力を安価にグローバル企業に差し出した。“農民”たちは搾取されたが、その代わりに中間層が形成され、その中間層を賄賂や利権という形で取り込んでいった共産党も豊かになって、共産党専制体制の維持を図ることができた。

 だが、習近平政権はこれまでのシステムを大きく変えていこうとしているのだ。鄧小平路線で中間層が育ち、世界一に成長した巨大市場を武器に、今度は、米国式グローバル経済に寄り添うのではなく、中国式グローバル経済を打ち立てて、米国をはじめとする国際企業に従えと言い始めた。習近平演説の本音は、そういうことである。

政治の風向きに敏感な中国人たち

 おそらく一部の投資家、企業家、経済エリートたちは、そういうこともわかって、習近平演説を歓迎しているのかもしれない。中国の巨大市場でビジネスチャンスが見込めるならば共産党に迎合してもいい、と思っているのか。特にトランプの米国が自国主義に走るならば、その穴を埋めるのは、巨大市場を有する世界二位の経済体である中国しかない、と思っているのか。

 だが、ちょっと冷静に考えてみれば、曲がりなりにも選挙で国家指導者・大統領を選ぶ民主主義国家の主導するグローバル経済になじんでいた人々が、社会主義専制国家が主導するグローバル経済になじめるだろうか。「中国のような巨大でもともと秩序のないような国家は、習近平のような独裁的リーダーによる新権威主義的経済が合っているのだ」という欧米の経済エリートもいるのだが、その習近平政権が主導する中国経済市場に進出するためには、ときに自分たちの利害を度外視して共産党に忠誠を尽くさねばならないということを、果たして本当に受け入れられるのだろうか。

 実は、この原稿を書いているのは4カ月ぶりの北京なのだが、しばらく来ないうちに「中国に習近平の独裁は必要なのだ」と言い出す人が周りに急に増えたのには驚いた。政治にうっすら不満を漏らしていた知識人たちでさえ、声に出して習近平の独裁を肯定するようなことを口にするようになってきた。ある出版関係者は「たぶん、選挙を行えば、習近平が必ず当選する。知識エリートは確かに不満を抱えているが、おそらく中国人民全体からいえば支持派が多い」。

 たびたび政治動乱を経験してきた中国人は政治の風向きに敏感である。全人代で憲法が修正され、習近平が長期に権力を握る可能性が拡大し、国際社会の経済エリートたちが習近平の独裁をも肯定するような流れになっていけば、彼らは、これはおかしいと思っていても、おくびにも出さなくなってくる。

 だからこそ、安全保障上は一番中国の脅威を感じながらも冷静に中国と付き合える日本が、本当にこの政権の行く方向に、国際社会が求める共通の利益を見出せるのかを、国際世論などにあまり左右されずに、見極めようと努力する必要があるのではないか、と改めて思うのである。

■変更履歴
記事掲載当初、「潘基文元国連事務局長」としていましたが「潘基文国連事務総長」の間違いでした。お詫びして訂正いたします。本文は修正済みです。 [2018/04/19 18:00]

 2017年10月に行われた中国共産党大会。政治局常務委員の7人“チャイナセブン”が発表されたが、新指導部入りが噂された陳敏爾、胡春華の名前はなかった。期待の若手ホープたちはなぜ漏れたのか。また、反腐敗キャンペーンで習近平の右腕として辣腕をふるった王岐山が外れたのはなぜか。ますます独裁の色を強める習近平の、日本と世界にとって危険な野望を明らかにする。
さくら舎 2018年1月18日刊