このため、楊潔篪や王毅、崔天凱ら外交官はあらゆる手を尽くして、トランプ政権の翻意を促す外交攻勢に出た。そのかいもあってか、2月になって、トランプは習近平との電話会談で、この台湾カードを引っ込め、一中政策の堅持を表明。中国もほっとした様子で、外交勝利だと喧伝した。だが、台湾カードを引っ込める代わりにトランプが求めてきたのは、北朝鮮に対する制裁強化、あるいは金正恩排除への協力である。

IS・シリアを優先、中国はそのあと

 3月の米国務長官ティラーソン訪中のおりには、さらに強く北朝鮮制裁に関する米国への協力を求める代わりに、トランプ政権は中国に対して「新型大国関係」を認めるという大サービスをした。ティラーソンは習近平と会談し、新型大国関係という言葉こそ使わなかったが、「衝突せず、対抗せず、相互に尊重し、ウィンウィンを求める」というかつて、習近平がオバマに何度も提示した新型大国関係を定義する四句を繰り返した。オバマは習近平の求める新型大国関係をついぞ認めなかったが、トランプはそれを認めたわけだ。

 これは外交官としての経験を持たないティラーソンの失言ではないか、と当初疑われたのだが、のちの報道によれば、ティラーソンは国務省の用意した原稿を読み上げたにすぎないという。トランプ個人が、中国をどのように思っているかはさておき、当面の共和党政権としての方針が、米中新型大国関係を受け入れるものであるとは言えそうだ。

 さらに、トランプはフィナンシャルタイムズのインタビューで、北朝鮮に対する先制攻撃について、中国の協力がなくとも単独で行うことをほのめかせる一方で、関税問題については、4月の習近平訪問時に議題にしないとも語った。また、2月末に日本を含む11カ国の駐中国大使が、中国の人権派弁護士の拷問について第三者機関による調査を求める声明を連名で出したとき、米国大使はこれに参加しなかった。これもトランプ政権として、人権問題などで中国を非難しないというメッセージだろう。

 恫喝とリップサービスや配慮、硬軟織り交ぜて中国に発信したメッセージは、トランプ政権側に中国を揺さぶるカードが多様であること示すと同時に、北朝鮮問題に関して米国への譲歩、妥協があれば、当面は中国と正面から敵対するつもりはない、ということだろう。

 おそらく、トランプ政権の対外政策における優先度は一にIS・シリア問題であり、二に北朝鮮問題であろう。南シナ海問題や台湾問題、貿易問題などを使った中国との正面対決はそのあと、ということになる。