この無界新聞事件に続いて、新華社の“誤植”事件があったことも、ここで触れておくべきだろう。3月13日夕方に新華社のサイトに掲載された「全人代記者手記:昆泰ホテルの内外から中国の経済的自信をさぐる」中で、「中国最高指導者・習近平」とあるべきところを「中国最後指導者・習近平」と誤植され、14日まで放置されていた。新華社の校閲体制の厳しさを知っていれば、こんな誤植は、まずあり得ない。党総書記に関わる政治的間違いを見過ごせば、校閲記者だけでなく上司もふくめで全員クビが飛ぶので、“習近平”の文字の前後は、目を皿のようにして何度も繰り返してチェックを入れる。

 とすれば意図的に校閲記者たちが見逃したとしか思えない。もちろん、極めてまれに、純粋に技術的な誤植のミスはあるのだが、何年かに一度あるかないかのレベルである。この“誤植”は14日まで放置されていたという。14日になって博訊が報道したため、まもなく修正された。新華社は、中央宣伝部直属の通信社。この件から、中央宣伝部は習近平に掌握されておらず、内部で激しい権力闘争が行われているのではないか、という推測もある。

「ペン」の掌握に手こずる習近平

 こうした事件からうかがえることは、習近平政権が掲げる「メディアの姓は党」というスローガンを復唱している党中央メディア内部でも、習近平の厳しすぎるメディアコントロールへの不満をくすぶらせ、党中央宣伝部内部にも習近平に反感を持つものが少なくないのではないかということだ。

 現中央宣伝部長の劉奇葆は共産主義青年団出身の胡錦濤派であり、習近平から睨まれている政治家の一人。いわゆる汚職Gメンである中央規律検査委員会特別巡視隊が2月28日から中央宣伝部に対して、取り調べを行っているが、この一連のメディアの政治事件となにか関係があるのではと勘ぐる声もある。

 共産党を支える二本の棒(杆子)は銃(軍事力)とペン(メディア・宣伝力)。この二本の棒を掌握できるかどうかが、習近平政権の安定性を左右する。だが、少なくともペンの掌握には、習近平は相当手こずっているような印象を受ける。中央メディアから、習近平政権への反乱が起きたとしても、私はさほど意外な気はしない。

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