記者会見後、王毅外相は「精日」への怒りを露わにした(写真:ロイター/アフロ)

 全人代会期中の恒例の外相記者会見で、日本で一番話題になったのは半島問題でも貿易問題でもなくて、「精日」問題、つまり精神的日本人、中国人の精神の日本人化問題で、激怒したことであった。

 「精日」(精神的日本人)とは近年使われるようになったネットスラングで、「自分は中国人だが精神的には日本人」を主張する若者を指し、中でも近代史における日本の役割を肯定し、中国の抗日精神を否定している点が、日本サブカル好き・哈日族と一線を画している。

 旧日本軍人コスプレの中国人コスプレイヤーが自撮り写真をネットにアップして拘留されるなどの事件が年明けにもあり、中国で社会問題化していた。そこで、王毅外相の発言があり、今年の全人代では「精日」を取り締まるための法整備も議論されている。

 では、なぜ今になって精日とよばれる中国人の若者が目立つようになってきたのか。今までの中国における日本ブームとどこが違うのか。

 習近平政権になって明らかに、政治的には日本に対して敵対的な外交方針であり、国内の日本関係研究者や作家ら知日派知識人は有形無形の厳しい圧力を受けていると聞いている。そうした時代の空気に反発するように若者が、日本の軍人や武士のコスプレをするのは、単にアニメや映画の影響というだけではあるまい。その背景というのを少し考えてみたい。

「そいつは中国人のクズだ!」

 まず会見のやり取りを振り返ろう。

 実は「精日」問題のやり取りの部分は、人民日報の公式報道では書き起こされていない。

 新華社記者の最後の質問に答えて、会見を締めた後、江蘇省紙の現代快報記者が立ち去ろうとした王毅に向かって、大声でこう質問したのだ。

 「外相! 最近の“精日”分子による民族のボトムラインを挑発する絶え間ない言動をどう思いますか?」

 すると、王毅は嫌悪を隠そうともしないで、「そいつは中国人のクズだ!」と人差し指を振り上げながら吐き捨てたのだった。

 さすがに公式の会見での発言ではないにしろ、カメラの回っている前での大臣の「クズ」発言はインパクトがあった。全人代の閣僚会見は、中国メディアも外国メディアも事前に質問事項を提出するので、おそらく、現代快報のこの質問は公式には却下されたのだろう。そもそも、全人代の舞台で外相に聞くような質問ではない。

 だが、予定稿どおりの会見やり取りが続いた後で、王毅の憤怒の表情を引き出した現代快報記者に対しては、メディアとしてはグッドジョブといいたい。その表情に、今の中国の焦りも見えた気がしたからだ。