五つ目の注目点は、「いかなる形式、いかなる名義でもってしても台湾を祖国から分裂させることは絶対許さない。祖国の平和統一プロセスを断固移さず推進する」と台湾に対する強い牽制をかけたこと。「両岸一家親」といった親しみを込めた台湾への呼びかけは今年はなく、李克強の読み上げる政府活動報告の中では、過去一番、厳しい表現による台湾への牽制といえる。それだけ、蔡英文政権の登場と、トランプ政権の「一中政策」をカードにした揺さぶりに習近平政権が狼狽させられたということだろう。

自信のなさか、ほめ殺しか

 香港、台湾に対する、これまでにない厳しい言及は実際、どのような急展開を見せるかわからない部分がある。福建省や浙江省の指導者を経験し、台湾統一への執着は人一倍強いといわれている習近平だけに、焦って軍事アクションをとる可能性は完全否定できないからだ。政府活動報告の中で、庶民が大喜びした唯一の話題といっていい、携帯電話のローミング無料化も、台湾や香港を国内扱いして既成事実を創ることも狙いかもしれない。

 総じて今年の全人代政府活動報告が浮き彫りにするのは、習近平政権の脆弱さや、それを自覚しての焦りやコンプレックスではないかと思う。そもそも“核心”呼びなど、政府活動報告に一か所盛り込めば十分な言葉なのに、11回も繰り返している。もしそれが、習近平の要求ならば、自信のなさの表れであるし、もし李克強からの提案であれば、いわゆるほめ殺しか嫌みであろう。そういう脆弱な政権だからこそ、追い込まれると焦って何をしだすかわからない。今後も、中国の政治の動きは一時も目が離せないのである。

 ともに儒教を文化の基盤にしているから「中国人とは理解しあえる」と信じる日本人はいまだに多い。だが、習近平政権下の空前の儒教ブームは、政治に敏感な彼らの保身のための口パクにすぎず、中国人はとうに孔子を捨てていたのだ。 「つらの皮厚く、腹黒く、常に人を疑い、出し抜くことを考え、弱いものを虐げ、強いものにおもねりながら生きていかねばならない」中国人の苛烈すぎる現実を取材した。
飛鳥新社 2017年2月15日刊

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