去年の政府活動報告には抵抗が多くて盛り込めなかった習近平核心呼びの文言を今年は盛り込むことができ、しかも李克強がこの部分を読み上げるときは、特に声に力を込めて強調していた。

 数えてみると「核心」という言葉は11回、「習近平」の名前は8回読み上げており、李克強がこんなに習近平の名を連呼したのは、おそらく初めてではないかという勢いだ。素直に考えれば、習近平は昨年までの抵抗勢力を抑えて、核心的地位を確立し、政敵の李克強にも認めさせたので、習近平の権力基盤は強化され、独裁化、長期政権化への道が開かれた証拠、というふうに分析できるかもしれない。

 だが、前述のような事情も漏れ伝え聞いているので、私としては香港に拠点を置くラジオ・フリーアジアが伝えた、河北省出身の独立系評論家、朱欣欣のコメントを支持したい。

 「党が力を入れて宣伝することは、はからずも党が必要としていること、欠けているものを示している。李克強が政府活動報告で、習近平の核心地位を強調したということは、習近平には核心地位としての威信、権威が欠乏していることを物語っている。権威には権力だけではなく、信望も必要だが、習近平にはこの一点が欠落している。習近平の核心呼びが強調されるほどに、中国共産党は現在、そういう(信望を得うる)魂を持った人物が欠乏しており、本当の意味での精神的支柱がない。すなわち泥の足を持つ巨人のように、表向きは強大だが、実際は非常に脆弱なのだ」

「香港独立派」言及の深謀

 四つ目は、初めて、「港独(香港独立派)」という言葉が政府活動報告に盛り込まれた。李克強は「港独は以前は存在しなかったが、今はこれに言及せざるをえない」「港独に前途はない」と、訴えた。香港独立派、あるいは香港本土派、香港自決派とも呼ばれる、「香港は中国ではない」という若者は、雨傘革命の挫折以降、台頭してきており、少数派ながら政治勢力としての存在感を持ち始めている。3月26日に予定されている香港行政長官選挙を控え、香港市民に対する警告の意味もあって、この文言を盛り込んだのだろう。

 政府報告書では、香港の一国二制度維持や高度の自治にも言及しているのだが、この港独という言葉には、香港アイデンティティを掲げる香港人に対して、チベット独立派(蔵独)やウイグル独立派(疆独)と同列に扱うという強烈なメッセージが込められているともいえる。つまり、香港の自決を叫んで中国に逆らう“港独”は、国家分裂を画策するテロリスト扱いするぞ、ということである。

 香港の政治評論家、林和立がラジオ・フリーアジアに次のようにコメントしていた。

 「目下、香港には国家分裂や国家安全に対する脅威を排除する法律はない。だが、この政府活動報告で正式に港独に言及したとなると、その意味は非常に重大だ。行政長官選挙後、香港基本法第23条に従って、国家安全条例を制定するつもりではないだろうか」

 国家安全条例は2003年に胡錦濤政権が制定しようとして、香港市民50万人デモの抵抗にあって挫折したいわゆる治安維持法だ。当時総書記の胡錦濤は、金融都市香港の安定を優先して、国家安全条例制定を棚上げしたのだ。それを習近平政権は再び、制定しようしている。すでに法律などお構いなしに、香港から中国に都合の悪い人物を拉致して拘束するようなことをしている習近平政権だが、この条例が制定されれば、香港の一国二制度は完全に粉砕されることになる。

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