王岐山と並んで、劉鶴の人事も注目されている。

 習近平が経済ブレーンとして頼りにする劉鶴を副首相にしたいのは、一つは首相の李克強から経済政策の主導権を完全に奪うつもりだからだといわれている。すでに経済政策の主導権は習近平が奪っているものの、国務院の経済官僚たちにとっては上司は依然、李克強である。習近平は自分が主導する過去5年の経済政策の失敗は、国務院官僚たちのサボタージュや抵抗によるものと考えているフシがあり、経済通の劉鶴を使って国務院の主導権を奪いたい考えだろう。

 筆頭副首相に就くと見られている韓正も、その他副首相説が流れている孫春蘭も胡春華も、経済にはさほど明るくないが、劉鶴はハーバード大学留学経験があり、かつてはゼーリック(当時世銀総裁)とともに世銀リポート「中国2030」をまとめて、注目を浴びた実力派経済官僚で、副首相になればその存在感は李克強を食ってしまうことになる。

 「中国2030」を読めば、劉鶴の本来の路線は李克強に近い新自由主義傾向と思われるが、習近平の経済ブレーンとなってからは国家資本主義、新権威主義を肯定する方向に転じた。ロイターなどは、人民銀行総裁候補だと報じており、副首相との兼任説も出ている。となると、金融政策も習近平の代理人である劉鶴が操縦桿を握る。ちなみに、現人民銀行総裁で間もなく引退する周小川はもともと上海閥であり、ときおり、微妙に習近平路線に不満をにじませた発言もしていた。

対米外交のキーマンは

 だが、もう一つの劉鶴の副首相起用の狙いは、やはり対米外交といえる。劉鶴は流暢な英語と洗練されたたたずまいで、米国官僚から受けがよい。2月27日から3月3日までの全人代開幕前夜までの訪米で、ムニューシン財務長官、コーンNEC委員長、ライトハイザー通商代表と会談したのも、副首相、あるいは人民銀行総裁候補とささやかれる劉鶴こそが通商問題のカウンターパートであるという印象を与えるためだろう。

 対米外交のキーマンとされるもう一人は、外交担当の国務委員の楊潔篪である。第19回党大会で政治局委員となり、今度の全人代では外交担当の副首相となる可能性もある。もし楊潔篪が副首相になれば、98年以来の副首相4人体制から5人に変わるか、もしくは今副首相職候補にあがっている劉鶴、孫春蘭、胡春華のうちの誰かが副首相になれない、ということもある。

 習近平が楊潔篪を重く見ているのは、国務長官のティラーソン、クシュナー・イヴァンカ夫妻との関係がいいからだ。ティラーソン自身、CNNのインタビューで「楊潔篪とは非常に親密な関係だ」と話し、楊潔篪に伝えたことは楊潔篪自身が直接、習近平に伝えられることを強調している。

 楊潔篪は平昌五輪開会式の背後で、ホワイトハウスを訪問、ティラーソン、トランプ、マクマスター(安保担当補佐官)、クシュナーらと会談しているほか、ティラーソンとは頻繁に電話でやりとりしているようだ。目下は米国の対北朝鮮姿勢を探りつつ、トランプ政権の対中融和策を引き出すのが主な任務のようだ。

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