ただ、国家主席職も国家副主席職も、本来はけっして強い権限をもつ職位ではない。どちらかというと主に外交任務を負う名誉職的な役割であり、国家主席が強い権限を持つようになったのは中央軍事委員会副主席であった楊尚昆が国家主席を兼務し、天安門事件において国家主席名で戒厳令を発令して以降である。国家主席が強い権限を持っていたのではなく、鄧小平の信頼を得ていた軍の実力者が国家主席職に就いたので、国家主席権限が強くなったのである。

 天安門事件後、鄧小平は強い権限をもつようになった国家主席職と総書記職が対立することによる党内分裂のリスクを避けるために、江沢民に総書記職と国家主席職、そして実際に最も強い権力を有する中央軍事委員会主席を兼務させる形をとった。国家副主席も同様で、1993年から98年まで国家副主席となった栄毅仁は政治局常務委員どころか非党員の実業家である。

 つまり国家主席も国家副主席もその職位自体に権限があるというよりは、誰がなるかで権限が強くなる可能性がある。王岐山の実績、実力を考えると、国家副主席職に就けば、強い権限をもつかもしれないと予測されている。

序列8位の政治局常務委員

 全人代開幕前に行われた予備会で、王岐山の席順は現役政治局常務委員と同じ列であり、メディアの報じ方もすでに政治局常務委員に準じた「序列8位の政治局常務委員」扱いであった。

 目下の香港メディアが報じているところによれば、王岐山国家副主席起用の最大の目的は対米外交だと見られている。王岐山が1997年のアジア金融危機と2007年のリーマンショックの被害を最小限に抑え込んだ非常に優秀な金融・経済官僚であることは周知の事実だが、特に米国の金融・財界からの評価が高い。リーマンショック当時の米中戦略経済対話でのカウンターパートであったポールソン(当時財務長官)はじめ、米金融・財界人とは現在もしばしば面会し、トランプ政権の趨勢・動向についての意見交換、情報収集にすでに奔走しているとか。

 ロイターなどによれば、2月14日は王岐山と駐中国米大使テリー・ブランスタッドが米大使館内で密会していたことが確認されている。習近平の経済ブレーンの劉鶴も同席していたという。ブランスタッドは習近平と親交が厚いことで知られている親中派。ブランスタッドがアイオワ州知事時代、習近平がまだ河北省正定県書記の駆け出し時代に河北省畜産業代表団を率いてアイオワを訪問した時に意気投合し、以降も友人付き合いが続いているとか。

 トランプ政権がブランスタッドを駐中国大使に派遣したのは、対中強硬姿勢を打ち出しながらも、習近平への配慮を忘れていない、というサインだといわれており、習近平サイドも、ブランスタッドを通じてトランプへの直接メッセージを送っている。米大使館における王岐山、劉鶴との密会は、米中貿易不均衡問題が主要テーマであるといわれているが、ブランスタッドが昨年9月以来計3回、中国の招待で中朝国境を視察していたことと考え併せると、米中貿易不均衡問題と中朝貿易、北朝鮮核問題もセットで交渉するということだろう。

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