金正男暗殺は中朝関係にどんな影響を与えるのか(写真:AP/アフロ、2001年5月撮影)
金正男暗殺は中朝関係にどんな影響を与えるのか(写真:AP/アフロ、2001年5月撮影)

 北朝鮮の流浪の王子、金正男は、日本人の愛人をもち、偽造旅券で東京ディズニーランドを楽しみ、赤坂のコリアンクラブの上客でもあったという、その日本びいきぶりと、記者とメールでやり取りにも応じる気さくさと、愛嬌のある容貌と、意外に開明的で視野の広い知性も備えていて、日本のネットユーザーの間で「俺たちのマサオ!」と結構人気があった。その金正男がマレーシアで、謀略小説さながらの方法で白昼、空港で暗殺された。いや、殺されたのは影武者で、偽装暗殺だった、俺たちの正男は生きている!という人もいる。とりあえず本当に暗殺されたとして、このことは中朝関係になにか影響があるのだろうか。

11人が関与、3か月前から準備か

 まず、事件の概要について、少し整理しておこう。

 北朝鮮の最高指導者、金正恩の異母兄である金正男はクアラルンプール第二国際空港の自動チェックインカウンターで、2月13日午前9時、暗殺された。マレーシア警察の記者会見によれば、事件には11人が関わっているとみられ、うち4人が逮捕された。残り7人の男は逃走中。

 金正男の検死解剖は15日に行われているが、目下、毒物の検出結果を待っているところで、死因となった毒物は確定していない。

 わかっていることは、インドネシア籍女性のシティ・アイシャ容疑者(25)が前から正男に何か話かけ、ベトナム籍のドアン・ティ・フォン容疑者(28)が後ろから手をまわし、顔に何かを擦り付けた。倒れた正男は空港職員に助けを求め、空港内の診療所に足を運び応急手当を受けたのち、市内の病院に搬送されたが死亡した。正男は金哲名義のパスポートで今月6日にマカオからマレーシア入りし、事件当日の13日午前10時50分の飛行機でマカオに戻る予定だった。死亡が確認されたのは午前11時ごろだった。

 逮捕されたのはこの女容疑者2人と、シティ・アイシャ容疑者のボーイフレンドのマレーシア男性と、主犯格とみられる北朝鮮籍のリ・ジョンチル容疑者(46)。指名手配を受けている7人の男のうち5人は朝鮮人で、その名前と年齢は判明。すでにマレーシアから出国している。この5人以外の2人の男の身元については、手がかりとなる情報提供を呼び掛けている。写真から判断すると朝鮮人らしい。

 暗殺計画は3カ月前から準備されていたもようで、リ・ジョンチルが二人に犯行を指示したとされる。ドアン・ティ・フォン、シティ・アイシャ両容疑者はともに自称ネットアイドルで、犯行当日に知り合ったという。シティ・アイシャの家族が日本のテレビメディアに答えたところによると、日本のテレビ番組のために「お金持ちにいたずらをしかける」仕事を依頼され、インドネシアのショッピングモールでも、いたずらを仕掛けて、報酬をもらったことがあるようだ。リ・ジョンチルは金日成大学卒業のエリートで、抗がん剤などを製造する製薬会社に勤務、クアラルンプール郊外の高級マンションに妻子とともに暮らしていたという。

 だが一部韓国メディアでは、この女たちも含めて北朝鮮の特殊部隊、工作員だとする説も報じている。

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