仕込んだのは紅か黒か

 この程度で張五常の言い分の引用はとどめておくが、まるで中学生にでも言い聞かせるように、市場経済と財産所有権こそが、フェアな経済競争のルールの前提であり、それは共産党体制と両立すると説いている。私は2004年に私有財産権の不可侵が中国憲法に明記されて以来、この路線を突き詰めれば中国共産党体制は変質せざるを得ないとみているが、張五常が本音ではどう思っているかは触れないでおこう。この長い反論に、ひょっとすると文革時代や天安門事件前夜のように、新自由主義者が粛清される日が来るのではないかという張五常の危機感を感じるのは私だけではないだろう。彼以外にも多くの経済学者が反論を試みている。

 鄧小平以降、当然のように中国が突き進んでいた経済の市場化および私有財産の肯定路線が、ここにきて揺らいでいるのはなぜか。この主張の背後に“高級紅”あるいは“高級黒”が絶対いる、というのが多くの識者の見方なのだ。高級紅とは、共産党中央幹部の中の左派、すなわち習近平かあるいはその一派を指す。高級黒とは、共産党中央幹部の汚職派(権貴派)、たとえば江沢民一派を指す。つまりこの論文は、習近平が進めようとする路線が従来の鄧小平路線と対立することを浮き彫りにするために、投げかけられたもので、仕込みをやったのが、紅黒どちらかはわからないが、今ある党内の路線対立および権力闘争にかかわりのあるものだと見られている。

 在米政治評論家の陳破空はネットサイトのコラム欄で、仕掛け人は王滬寧であって習近平ではない、という見方を示していた。陳破空に言わせれば、王滬寧はかつて三つの代表論といった江沢民の指導理論を起草し、資本家の入党を認める根拠となった理論を構築した張本人だ。だが、現在は習近平に仕えており、外部からお前は習近平派か江沢民派か、どっちなのだ、という批判が起きているという。なので、ここで自分が完全に習近平派であることをアピールするために、老学者をたきつけて、この論争を仕掛けたのではないか、という見立てだ。