とすると、中国EC最大手企業のアリババのCEOであるジャック・マー(馬雲)が、トランプと面会してその席で米国に100万人の雇用機会を約束したことなども、中国政府の意向と全く無関係というわけでもないだろうし、春節にあわせて、中国企業100社が合同でトランプ大統領宛ての新年グリーティングカード式広告をタイムズスクエアに掲げるなどのアクションも、企業の自発的行動というよりは、中国の対トランプ攻略の一環かもしれない。トランプの移民政策はシリコンバレーのIT企業らからかなり反感を買っており、中国IT企業にとっては米国進出のチャンスという見込みも当然ある。

念願の「G2」も、「一つの中国」放棄なら…

 中国にとっての最大の懸念は対米貿易摩擦の問題よりも、むしろ「一つの中国」原則放棄などの台湾政策の変更が今度どう展開されるかということの方だろう。

 仮に「一つの中国」原則を放棄されてしまうと、中国共産党の執政党としてのメンツが立たないので、切羽詰まった中国側が、例えば台湾の太平島を争奪作戦とか、ベトナムが領有権を主張する南シナ海の島にちょっかいを出すとか、尖閣諸島に上陸するとか、なんらかの軍事アクションをとる可能性は当然考えられる。そのときに、トランプ政権がどう出るかが、中国の命運を左右することになるやもしれない。

 総じて言えば、トランプ流の無茶ぶりは、中国にとって吉にも凶にも転び得る。トランプが差別的で人権無視の言動をすれば、中国の差別や人権問題のネガティブイメージは何となく薄められてしまうし、保護主義的になれば、もともと保護主義だった中国が「なんかグローバルな印象」になる。だが、トランプ政権が本気で中国共産党体制を潰しに来る可能性もあるので、中国としても、先の見通しが立ちにくい分、トランプの言動に振り回されている感がある。

 一つ言えるのは、トランプ大統領でなければ、良くも悪くも中国がここまで米国の対立国として世界からクローズアップされなかった。かつて中国が熱望したG2時代がまがりなりにも実現したのだから、やっぱり中国はうれしいんじゃないかな、と私は思っているのだが。

【新刊】中国が抱えるアキレス腱に迫る
赤い帝国・中国が滅びる日

 「赤い帝国・中国」は今、南シナ海の軍事拠点化を着々と進め、人民元を国際通貨入りさせることに成功した。さらに文化面でも習近平政権の庇護を受けた万達集団の映画文化産業買収戦略はハリウッドを乗っ取る勢いだ。だが、一方で赤い帝国にもいくつものアキレス腱、リスクが存在する。党内部の権力闘争、暗殺、クーデターの可能性、経済崩壊、大衆の不満…。こうしたリスクは、日本を含む国際社会にも大いなるリスクである。そして、その現実を知ることは、日本の取るべき道を知ることにつながる。
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