貧困標準線以下の人口ゼロを実現するために、たとえば貧困村の村民全員を都市部に移住させたとしても、実のところ、彼らの暮らしが豊かになったといえるかは、微妙であろう。物価の高い都市部での地方居民、出稼ぎ農民が増えれば、今定められている貧困標準線は事実上もっと上に設定されなければならない。数字がゼロになったかどうかでは、貧困が撲滅されたと簡単には言えないだろう。

偉業と讃えられるデータの陰で

 クレディ・スイスが2017年11月に発表した2017年度版グローバル・ウェルス・リポートによれば、中国の世帯資産額の伸びが前年比6.3%で米国に次ぐ世界二位。2000年から計算すると世帯資産増加はこの17年で6倍という。同リポートは資産(不動産、車を含む)1万~10万ドルを中産階級と定義しているが中国の中産階級は2017年段階で世界11億人の中産階級人口の実に35%、およそ3.85億人。さらに所有資産100万ドル以上の富裕層もすでに200万人で世界の富裕層の5%を占める。

 こういうデータをもって、中国が経済発展した、中国は豊かになったという人がいるのは不思議ではない。日本の4倍にあたる巨大市場こそ、世界経済のけん引力であると期待する声も当然あるだろう。だが、同時に気づいてほしいのは、中国の世帯資産急増の原動力は、実は不動産(土地)の高騰であり、その不動産高騰の背後には農地を奪われた失地農民(もちろん、潤沢な保証金をもらった農民がいなかったとは言えないが)と、土地を失って都市に出稼ぎに出ざるを得ない流動人口が存在する。そして、その出稼ぎ者たちが超低価格で都市インフラ・サービスを底辺で支えるからこそ、中国4億人の中産階級は、さまざまな圧力に押しつぶされそうになりながらも、なんとか中産階級らしいややゆとりある暮らしを享受できる。

 だが、実はそのバランスは非常にあやうい。バブル崩壊、金融のシステミックリスクで根こそぎ崩れる可能性もある。その一方で、留守児童問題に象徴されるように、農村社会は事実上の崩壊の危機に直面している。単純に貧困人口が統計上減少した、中産階級が増加した、ということをポジティブに受け取めきれない、中国社会構造のいびつさがそこに垣間見えている。経済成長が農村の伝統的な貧困を破壊する代わりに、都市部の新たな貧困と搾取構造を生んでいる。

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