だが、この映画から見て取れるのは、飢餓で生存が危ぶまれるような農村の絶対的な貧困問題とはまた違った次元で、都市の出稼ぎ者が味わう人としての尊厳が傷つけられるような貧困もまた、絶望を深くし、そうした相対的貧困はむしろ中国経済・市場の拡大とともに深まっているということだ。皆がスマートフォンを持つ時代に、スマートフォンを持たないことは耐えがたい貧困だ。皆が飢餓に苦しんでいた時代に、わずかながらの食糧を手に入れられれば、それは至福をもたらすこともある。

農民VS都市民から地方居民VS大都市民へ

 中国における現在の貧困人口定義は、2016年に定められた中国貧困標準ライン(年収3000元)以下をさすが、2017年6月当時の報道を参考にするとおよそ4335万人いるという。年初の国務院新聞弁公室の記者会見によれば、2012年から2017年の5年間で6600万人を貧困から脱出させ、その数字はおよそ貧困人口全体の三分の二にあたるとしているので、1億人いた貧困人口が今は3000万~4000万人にまで減っているということになる。

 統計上の貧困人口激減は農村人口の急減とセットになっているといえる。中国の実質農村人口は2011年末の段階で史上初めて都市人口を下回り、2018年1月の国家統計局の発表では5.7億人にまで減っている。ただし、これは農村戸籍を持ったまま都市居住している人口も都市人口に含めたものである。いわゆる流動人口は2.4億人いるので8億人前後が農村戸籍かそれに類する居民戸籍ということだ。

 いわゆる中国の二元社会構造・搾取構造の元凶といわれている農村戸籍・都市戸籍を区別した1958年以来の戸籍制度は農村の都市化にともなう農村戸籍者の都市戸籍への転籍や、2014年以降に一部都市で導入された都市出稼ぎ者への居住証(グリーンカード=地元都市民と同等の待遇を保証する)制度、また統一居民戸籍導入を求めるように国務院としての意見が発表されたことを受けて一部省・市・県で統一戸籍導入が段階的に始まったことなどから、その区別、対立は以前よりは緩和されたように見えている。農村戸籍者数自体は確実に減っている。

 だが、農村戸籍がたとえ居民戸籍に統一されても、流動人口2.4億人の暮らしが安定するというわけではない。農村戸籍者だけでなく地方居民戸籍者の移動の自由にも大きな制限があり、農民VS都市民ではなく、地方居民VS大都市民のような形で対立の形が変わるだけだ。その証左が、北京市人口抑制政策として地方からの出稼ぎ者を「低端人口」として強制退去させる当局のやり方に表れているといえるだろう。

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